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エネルギーの“見える化”で企業のGHG排出量削減を支援|東京ガス株式会社 Joyシリーズインタビュー
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企業のGHG排出量削減にあたり、企業内の施設や装置がどれほどのエネルギーを消費しているか「測る」ことは、環境省の『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック』にも述べられているとおり重要なステップです。東京ガス株式会社(以下:東京ガス)が開発、販売を手がける「Joyシリーズ」は、GHG排出量削減に向けて、GHG排出量を「測る」ことを支援する「エネルギー監視システム」として活用可能な『JoyWatcherSuite』をラインナップ。企業の脱炭素への取り組みをサポートするツールとして注目されています。
「Joyシリーズ」の特長や強み、導入企業から届く声などを、同社ソリューション共創部 Joy事業グループ ソリューションチーム 菊地裕利 チームリーダーに聞きました。

“見える化”で脱炭素を加速するJoyシリーズとは?
──貴社の「Joyシリーズ」の概要、そして特長を教えてください。
東京ガス株式会社 ソリューション共創部 Joy事業グループ ソリューションチーム チームリーダー 菊地裕利(以下、東京ガス菊地):「Joyシリーズ」は、製造業をはじめ幅広い業種のDXを支援するパッケージ・ソフトウェア群です。他社製品と異なる最も大きな特長は、シリーズ内のソフトウェアがすべてノーコードでシステムを構築できる点です。プログラミングの専門知識は不要で手軽に使えるため、お客様自身にとっても、全国約190社のSI(システム・インテグレーション)パートナーの皆様にとっても導入しやすいことは、シェアが広がっている一つの要因だと思っています。
──中でも、『JoyWatcherSuite』は国内トップシェアを誇ります。こちらはどのような製品なのですか?
東京ガス菊地: “SCADA(スキャダ・Supervisory Control And Data Acquisition)”と呼ばれる産業用データ監視・制御システムの一種で、工場や建物にある装置やセンサーとつながり、そこから得られるデータを監視、つまり“見える化”しながら一元的に管理するものです。
製造をはじめ産業の現場の多くでは、装置などを制御するために様々なメーカーのPLC(自動制御装置 Programmable Logic Controller)が点在しており、それらは数百~数千点にのぼるデータを取り扱っています。『JoyWatcherSuite』は、国内外の主要メーカーのPLCに対応する通信ドライバを標準搭載しており、既存のどのようなシステムともスムーズに連携できる「オープンなソフトウェア」であることが強みです。施設内に点在している様々なデータを一カ所に集約し、統合的な分析が可能です。
また一般的なSCADA製品に比べ、標準価格が非常に安価です。『JoyWatcherSuite』は基本機能を網羅したソフトウェアを低コストで導入でき、現場のニーズに合わせてノーコードで自由にカスタマイズしていける点が、他製品との差別化要素だと思っています。


『JoyWatcherSuite』の監視画面。
グラフィックで簡単にアニメーション表示でき、ノーコードで自由にカスタマイズも可能。
──「Joyシリーズ」は、もともと日本たばこ産業株式会社傘下のジェイティエンジニアリング株式会社(以下:JTE)で開発されたものだそうですね。
東京ガス菊地:はい。1982年にタバコ製造工程制御・監視ソフトが誕生し、1999年に『JoyWatcherSuite』として販売を開始しました。生産現場で生まれ、40年以上におよぶ長い開発実績の中、市場やシステム環境の変化、ユーザーの皆様のニーズに寄り添いながら成長してきたソフトウェアが、2022年に事業譲受で弊社に仲間入りしました。
その経緯のひとつには、社会全体に広がる脱炭素の動きがあります。弊社は、エネルギーインフラ事業を通じて、多くの企業のお客様とのつながりを構築してきました。製造業をはじめ、あらゆる企業にGHG排出量削減やエネルギーを大切に使う姿勢が、年々強く求められるようになる中、エネルギーの使用状況の“見える化”が可能なシステムを、1つのソリューションとして提供できないだろうかという考えに至りました。
そこで候補に上がったのが、「Joyシリーズ」でした。弊社では2019年からシステム・インテグレーション事業を通じ、製造業のお客様に「Joyシリーズ」を活用いただくサービスを提供しており、私たち自身も実際に使用して、使い勝手の良さやフレキシブルさを実感していたんですね。ですから、ぜひ「Joyシリーズ」をお客様の課題解決の基盤にしたいと考えました。
──具体的に、「Joyシリーズ」では脱炭素化の視点でどのような課題解決ができるのでしょうか?
東京ガス菊地:『JoyWatcherSuite』には、「エネルギー管理(EMS)」という機能を標準搭載しています。この機能は、施設内の装置やセンサーから電力の使用状況のほか、太陽光発電や風力発電といった再エネ発電設備の発電状況などのデータを収集、管理できるものです。
収集したデータは、エネルギーの使用量を電力種別ごとの積み上げグラフで表示したり、温度などのセンサー情報を折れ線グラフで表示したりと、視認性のよいイメージで表示できます。そのため、例えば「工場全体の使用電力がピークに達した際、どこの製造部門で最も電力が使われているのか」といったことも一目でわかります。表示するデータは、必要に応じて、日報、月報、年報への切り替えも可能です。
そこから「では、なぜこの部門だけ使用電力が多いのか?」「どのような取り組みをすれば、使用電力を抑えられるだろうか?」という、GHG排出量削減に通じる気付きが生まれ、データの分析やGHG排出量削減対策の検討がしやすくなるのではないかと考えています。

標準搭載のエネルギー管理(EMS)機能。
再エネ発電の発電状況や電力使用状況の見える化および管理も可能。
── エネルギー管理機能は、開発当初から実装されていたのですか?
東京ガス菊地:市場ニーズの高まりに合わせて、2008年に追加された機能です。「Joyシリーズ」では弊社の事業承継前から今もなお、お客様の視点に立った機能追求を重要視しており、エネルギー管理機能もその一つです。
また初期機能として、電力の使用量を監視し、設定した値を超過した場合アラームで知らせる「電力デマンド監視制御機能」、空調機器や照明のリモート操作、自動点灯・消灯ができる「スケジュール発停機能」を実装しました。これも、お客様の需要を受けてパッケージに盛り込んだものです。
現状、2つの機能については電力コスト削減を重視して使用するお客様が多いですが、将来的にはエネルギー管理機能とあわせてGHG排出量削減の取り組みにつなげる、といった活用の仕方も想定しています。

製造業に限らず幅広い業種の“見える化”を実現
── 「Joyシリーズ」は、主にどのような規模、業種の企業の皆様が導入されているのでしょうか?
東京ガス菊地:『JoyWatcherSuite』は元来、製造業向けに開発した製品ということもあり、これまでは機械や半導体の工場などが中心でしたが、最近は食品や医薬品、化粧品業界、地方のエネルギー会社の皆様にも導入いただくようになりました。またシリーズ内にはビルの監視、制御に特化した『JoyWatcherSuiteBA』もあり、工場などに限らず幅広いお客様から引き合いをいただきます。規模でいうと、「まずは500〜3,000点ほどの機器のデータを“見える化”したい」といったお客様が多い傾向です。
── 導入を検討される皆様は、どのようなことに課題感をお持ちなのでしょうか?
東京ガス菊地:ヒアリングで多く聞くのは、「施設内に点在するシステムのデータを各所から集めてくるのが大変」という声です。近年はDXを推進する過程でシステムが乱立し、工場ごと、建物ごとに違うシステムが入っているケースもよくあります。そうした企業の皆様は、“見える化”やデータ管理を1つのソフトウェアに統一したいと「Joyシリーズ」に興味を持ってくださいます。
また「“見える化”と合わせて省人化、省力化に注力したい」というご相談も多くいただきます。各設備が他の設備と通信により連携できないため、統合的に消費エネルギーを分析するには、装置一つひとつを人が回ってUSBメモリでデータを取り出さなければならないケースが多くあります。人材不足が進行する中、そうした課題を解決したい企業も増えている印象です。
── そのような企業の皆様には、エネルギーの使用量やGHG排出量削減を念頭に置いて相談に来られるケースも多いですか?
東京ガス菊地:個人的には着実に増加していると感じます。「カーボンフットプリント」(製品の製造から廃棄までライフサイクルでのGHG排出量を示す仕組み)の考え方の浸透や、サプライチェーンからの要請強化などにより、エネルギー使用状況の“見える化”のニーズはさらに加速していくと想定しています。
また、最初はエネルギーコストの削減や省人化・省力化・DX化を求めて相談に来たお客様も、『JoyWatcherSuite』なら脱炭素に向けた取り組みと両輪で進められることを私たちから提案すると、魅力に感じてくださるケースが多いです。個々の装置には電力の監視システムを入れていても、そのデータを取り出して統合的に分析する意識までは持っていないという企業も少なくありません。先程お話ししたように、USBメモリなどを使っているとデータの収集に手間がかかり、実行が難しい現状もあります。
『JoyWatcherSuite』はデータを簡単に集約できるだけでなく、例えば「A装置の出力が上がっているときは、B装置の出力が下がっている」といった施設内の様々な装置との相関関係まで“見える化”できます。装置単体のデータを管理するよりも、省人化・省力化できて、より効率的なエネルギーの使用、GHG排出量削減対策の検討に有効なのではないかと、期待を持って採用いただくケースもあります。

現場での異常発生時、ネットワークカメラを使用してリアルタイムで視認できるのも魅力。
── 導入の障壁として初期コストがあると思いますが、「Joyシリーズ」は低コストで導入できるのも魅力の一つですよね。
東京ガス菊地:はい。一般的なSCADAは『JoyWatcherSuite』と比較すると多少高価なものが多く、さらに既存のPLCと接続するためにドライバの開発が必要となる場合もあるので、初期コストを考えて導入を迷われる企業は多いと思います。また、他社のSCADA製品やDCS(分散制御システム・Distributed Control System・ディーシーエス)の場合は、機能の追加に販売元への依頼が必要となるケースがあり、導入後の追加コストも懸念されます。
一方「Joyシリーズ」は、いわゆるスモールスタートできる点が特長です。「まず、この装置だけを“見える化”してみよう」と最初に安価なパッケージを購入し、使いたい機能だけを追加していくことが可能です。その後、簡単なカスタマイズであれば、自社内でしかもノーコードで拡張できる点でも、非常に好評をいただいています。
「自社にどのような機能が必要なのかわからない」という場合でも、弊社ではヒアリングでお客様の実現したいことをじっくり伺った上で、「Joyシリーズ」はそれをどう叶えられるのか一緒に検討させていただき、見積りを行います。内容に納得いただいた後、お客様のニーズに適したSIパートナーをご紹介し、システム構築に入る流れです。
── 導入を検討される皆様へのヒアリングで、配慮されている点はありますか?
東京ガス菊地:“見える化”の「先」まで考える視点は、つねに忘れないようにしています。“見える化”を実現できたら、私たちの役割が終わるわけではありません。その後、お客様は最終的に工場や会社をどのような姿にしたいのかといった、将来像を描くところまで一緒に寄り添い、その最初のステップが「Joyシリーズ」での“見える化”であることを認識いただくことが大切だと考えています。
特にGHG排出量削減については、「システムで“見える化”したから○%削減できる」わけではなく、得られたデータを活用し、脱炭素に向けたアクションを起こしていくことで初めて“見える化”が活きてくるのです。そうした話も、お客様にはよくさせていただきます。
自社内だけで検討していると、どうしても考えの範囲が狭まりがちです。そこにエネルギーインフラ企業としての専門知識も持ち合わせた私たちが、DXや脱炭素化を含めたトータル的な提案をすることで、考えの幅が広がり、「このようなことも実現できるかもしれない」とアイデアを広げていただく。それが私たちのヒアリングの目指すところであると思っています。
“見える化”の「先」までサポートできる存在に
── 実際に「Joyシリーズ」を活用されている企業の皆様からは、どのような声が届いていますか?
東京ガス菊地:エネルギーの“見える化”については、施設全体の使用状況を把握、分析することでエネルギーの無駄遣いに気付き、エネルギーの効率的な利用につながった、省エネルギー施策を加速化できたといった声をいただきます。
また導入後に、もっと精密なデータを取りたい、“見える化”できる範囲を広げたいという要望をいただくこともよくあります。例えば、製造業のお客様は、ユーティリティ設備を監視されている方々が『JoyWatcherSuite』を活用するシーンが多く、現場から寄せられた「こんなデータを見られたらもっと良い分析ができるのに……」という声にお応えして喜ばれたことがありました。本当に求める情報をお客様自身が持つことを機に、現状の分析や改善に対する意識も高まっていくことを肌で感じています。
── これから運用していく中で、新たなニーズも生まれてきそうですね。
東京ガス菊地:そうですね。長年利用されているお客様からは、“見える化”するデータが増えてきたことで、「データを分析する手が足りなくなってきている」という話もいただきます。そうした“見える化”した後の分析について、私たちがお手伝いできるサービスも現在開発中です。
2024年3月には、ビル・工場等のさらなるGHG排出量削減、エネルギーコスト削減のため、熱源機器の稼働を最適化するAI開発を実現すべく、機械制御分野における先進的AI技術を有する株式会社エイジング、グループ企業である東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社、弊社の3社で、協業に向けた基本契約を締結しました。
3社の専門知識や技術、『JoyWatcherSuite』やこれまでの研究開発で得た弊社の知見も組み合わせながら、リーズナブルかつ汎用性のあるAIを開発し、2024年度を目処に様々な企業の皆様に広く価値を提供することを目指しています。
── 最後に、今後の展望をお聞かせください。
東京ガス菊地:弊社の事業承継前より重要視してきたお客様のニーズに寄り添うことを第一に考えたソフトウェア開発、機能のアップデートは、これからも変わらず継続してまいります。現在、お伝えした熱源機器の最適制御を実現するためのAI開発をはじめ、クラウドを活用して点在するデータを効率よく収集できる技術の開発などにも、注力しています。
また、「Joyシリーズ」には、帳票類を電子化し現場のペーパーレス化を推進する『JoyCoMES Re』、自宅や出張先からの遠隔監視を可能とする『JoyWatcherSuite Webkit』など、現場のDX化や省力化を加速させるソフトウェアが充実しています。こうしたシリーズ内のソフトウェアとの連携によっても、企業のGHG排出量削減対策の可能性は広がるのではないかと思っています。単なる“見える化”だけではなく、「Joyシリーズ」を通じて、お客様が目指す未来を実現するための、効果的なサポートができる存在になれたらと考えています。

インタビュー・執筆:吉田裕美
写真:高見知香
