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エネルギー監視システムの“見える化”で進む脱炭素
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執筆者プロフィール
吉田裕美
Yumi Yoshida
金融機関勤務を経て、2016年にフリーライターへ転身。Webコンテンツや書籍、メールマガジン、キャッチコピーなど、様々なジャンルの執筆に携わる。近年はSDGs、サスティナビリティ関連のコンテンツ制作も多数担当。
脱炭素の取り組みにおいて欠かせないのが、二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガス(GHG)の排出量を「測る」プロセスです。GHG排出につながる電気などのエネルギー使用量を“見える化”する「エネルギー監視システム」は、この「測る」プロセスで役立ちます。自社ではいつ、どこで、どのくらいのエネルギーが使われ、GHGが排出されているのかという現状を把握できると、次段階に実施するGHG排出量削減対策の検討がしやすくなります。本記事では、エネルギー監視システムとは何か、導入によって得られる効果、導入に際しての課題や解決方法、そして導入後に活用できる補助金制度などを解説します。
1. 脱炭素経営におけるエネルギー監視システムの重要性
企業が脱炭素化に向けて有効なGHG排出量削減対策を計画、実行するためには、環境省が『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック』の中で推奨する「①知る」→「②測る」→「③減らす」の3つのステップのうち、「②測る」取り組みが重要となります。
詳細はこちら:知っておきたい脱炭素|「脱炭素経営を実践するために重要な3つのステップ」
自社のGHG排出量を測る方法のひとつに「活動量×排出係数」の算定式があります。「活動量」とは、電気の使用量や燃料の使用量といった、事業におけるエネルギー消費活動の規模を表す量を指します。この活動量に、政省令で定められている「排出係数」(単位活動量あたりのGHG排出量 例:電気1kWhあたりのGHG排出量)を乗じることで、活動ごとのGHG排出量を算定できます。
この算定を実施するには、事業において電気や燃料など、エネルギーがどれくらい使用されているかを数値で確認する必要があります。そこで有効な手段となるのが「エネルギー監視システム」です。ここでは、エネルギー監視システムの特徴や種類について紹介します。
出典:環境省ホームページ|温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度|制度概要を参照。
(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/about)(2024年3月13日時点)
エネルギー監視システムとは?
エネルギー監視システムとは、企業の施設や装置における電気や燃料といったエネルギー使用状況のデータを採取したうえで集約、可視化し、一元管理を行うシステムです。
簡単に入手できる情報からエネルギーの使用状況を知るには、「毎月の電気やガスの請求伝票に記載された使用量を確認する」などの方法もあります。しかし、そうした方法では例えば、
「A工場の特定の生産プロセスの電気使用量」
「事業所内のエアコンの電気使用量」
といった施設単位、装置単位のエネルギーの使用状況まで知ることはできない可能性があります。
エネルギー監視システムがあれば、企業全体だけでなく、個々の施設や装置ごとのエネルギー使用状況を“見える化”できるため、どの場所や設備でどれくらいの電気が使われているのか、どの時間帯や時期に多くの燃料が使われているのかといった詳細な情報を得ることができます。
その情報をもとにGHG排出量を算出できれば、自社のGHG排出源の特定や分析が可能で、脱炭素経営の要となる効果的な削減対策の計画、実行につなげられます。

エネルギー監視システムの種類
様々な種類が存在するエネルギー監視システムの中で、工場やインフラ施設などでよく使われている2つのシステムを紹介します。
●SCADA(監視制御システム・Supervisory Control And Data Acquisition)
SCADAとは、産業用の監視制御システムのひとつで、工場などの施設に設置された装置、センサーなどに関するデータを、ネットワークを通じて一元的に管理するシステムです。各機器に接続して監視や制御を行うRTU(遠隔監視制御装置・Remote Terminal Unit)やPLC(自動制御装置・Programmable Logic Controller)といったシステムとつながることで、それらから送られる情報を1カ所に集めて“見える化”することに特化しています。
製品によりますが、SCADAには様々な機能が標準的に付帯しているもの、最低限の機能に加えて必要な機能を追加できるものなどがあります。エネルギー監視システムとして活用する場合は、該当機能があればそれを使えますし、自社が“見える化”したいデータに合わせて、機能をカスタマイズする選択肢もあります。
●DCS(分散制御システム・Distributed Control System)
DCSは、施設内の装置やセンサーなど各機器に対する監視、制御を、生産ラインや設備群など特定のグループごとに分散して行うシステムです。DCS同士をネットワークでつなぐことで相互に連携し、情報を管理することができます。
各グループに分散して制御を行うことで、万一どこかのグループでトラブルが起きた際にも、システム全体を止めることになったり、トラブルが波及したりするリスクが低いため、発電所など大規模な施設、24時間365日連続稼働が求められる現場で使われることもあります。
DCSは各機器の監視と制御を行うことに特化しています。製品により異なりますが、SCADAのように機能をカスタマイズできる汎用性では劣ります。そのためDCSをエネルギー監視システムとして活用する場合は、電気や燃料の使用状況を監視、制御できるものを選択する必要があります。
エネルギーの使用状況を“見える化”したい施設の規模や装置、センサーなどの設置状況、希望する情報管理体制などに応じて、導入するエネルギー監視システムの種類を選択することが大切です。
2. エネルギー監視システム導入で期待できる効果
エネルギー監視システムを導入した場合、脱炭素経営を目指す企業はどのような効果が得られるのでしょうか。エネルギー監視システムで“見える化”できるものや、それを知ることで得られる効果について解説します。
エネルギー監視システムの“見える化”による効果とは?
エネルギー監視システムを活用するためには、GHGの排出源となりうる装置を監視する必要があります。例えば、製造業の工場の場合は、
・燃焼設備
・空気調和設備、換気設備
・照明設備
・熱利用設備
・電動機、電動力応用設備
などが挙げられます。
これらによる電気、燃料、熱、蒸気などエネルギーの使用状況を、エネルギー監視システムで“見える化”することにより、GHG排出量を「測る」方法のひとつ「活動量×排出係数」の算定式に必要な「活動量」を導き出すことができます。
また近年、企業における脱炭素の取り組みについては、自社以外に他社を含むサプライチェーンを通じたGHG排出量削減が求められています。そのため、GHG排出量の計算に用いられる「Scope」をもとに、自社・他社を含むサプライチェーンのGHG排出量を算出する必要があります。
詳細はこちら:知っておきたい脱炭素|「Scopeについて解説!CO2排出量の計算方法を知ろう」
エネルギー監視システムを活用すれば、Scope 1〜3の3つのうち自社の直接排出にあたる「Scope 1」と、間接排出にあたる「Scope 2」を算出することが可能です。また導入するエネルギー監視システムの製品によっては、自社全体のみならず、設備ごと、生産ラインごと、時間ごとなど詳細な情報を得ることもできます。
その場合、例えば、事業所単位、設備単位でのGHG排出量を分析してGHG排出源の特定を行う、そこから実施可能な削減対策をリストアップする、実施計画を立てる、目標数値を決定する、といった有効な削減対策の検討をスムーズに進めることができます。
ただし導入するエネルギー監視システムの製品によって、“見える化”が可能な装置、出力されるデータの形式(グラフ、エクセルデータなど)なども異なりますので、導入するシステムを選ぶ際は「自社が理解や分析をしやすいものはどれか」といった視点を持つことも重要です。
出典:環境省ホームページ|温室効果ガス排出削減等指針(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gel/ghg-guideline/reference/)内「温室効果ガス排出量排出削減等指針に沿った取組のすすめ〜中小事業者版〜脱炭素に向けた取組実践ハンドブック」18P、
経済産業省 資源エネルギー庁ホームページ|「知っておきたいサステナビリティの基礎用語〜サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは」を参照。
(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/scope123.html)(2024年3月13日時点)

GHG排出量削減対策の検証、改善にも役立つエネルギー監視システム
GHG排出量削減に中長期的に取り組み、結果を出していくためには、実施した削減対策の効果を検証し、見直しを繰り返していくことが非常に大切です。
ここでもエネルギー監視システムが役立ちます。システムから得られる様々な装置や施設のエネルギー使用量といった数値について、削減対策の実施前後で比較したり、現況と目標値とのギャップを確認したりすることが可能だからです。また太陽光発電など再生可能エネルギーの生産施設を監視対象に加えれば、生み出された電力により、どれだけのGHG排出量を抑えられたかがわかります。
例えば、
「夏は、事業所全体の冷房設備の電気使用量が多めだから、設定温度を工夫しよう」
「B工場のあの設備は電気の使用量が常に多いから、運用方法や機器の見直しを検討しよう」
といったように、削減対策の実行とあわせて、エネルギー監視システムによる対策の検証と改善を継続的に重ねていくことで、取り組みの精度が上がり、脱炭素経営の加速が期待できます。
また、エネルギー監視システムの中には、収集したデータをグラフでわかりやすく“見える化”できる機能を有するものもあります。社内コミュニケーションに効果的に取り入れることで、企業全体の脱炭素化への意識を高め、より多くの成果を得られる可能性があります。
その他に期待できる効果
SCADAやDCSなどのエネルギー監視システムの導入により企業が期待できる効果は、他にもあります。例えば、GHG排出量削減につながる業務の省人化、省力化もそのひとつです。
現在、「省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)」では、一定規模以上の工場や事業者に対してエネルギー使用状況の定期報告を義務付けています。対象の装置などの使用状況をセンサーなどでデジタル化していれば、この報告に必要なデータをエネルギー監視システムで収集することが可能です。
逆に、エネルギー監視システムを未導入の企業では、エネルギーの使用状況を把握するために
・毎月の電気やガスの請求書を、誰かが確認しなければならない
・個々の機器などを巡回し、取り付けたセンサーから一つひとつデータを収集しなければならない
といった手間が発生するケースもあります。
さらに、エネルギー監視システムの活用によって、エネルギーの無駄遣いも“見える化”されることで、コストの削減にもつながります。例えば、「人がいない部屋の空調設備が作動していることが多いから、人感センサーでオフにできないか」「照明を消費電力の少ないLEDに取り替えよう」といった対策により、GHG排出量とエネルギーコストの両方を削減できる可能性があります。
そして、社会全体で脱炭素化に注目が集まる中、エネルギー監視システムを活用してGHG排出量の削減に取り組んでいること、またどれくらいの成果を出しているのかといった情報を社内外に展開することは、企業価値の向上という側面でプラスに働くこともあります。顧客や取引先、サプライヤー、投資家、就職活動者といった様々なステークホルダーに良い印象を与え、企業に対する評価の高まりが期待できます。

3. エネルギー監視システム導入の課題と解決方法
では、企業がエネルギー監視システムを導入するにあたり、どのような課題が発生するのでしょうか。ここでは、課題と解決方法について掘り下げて解説します。
エネルギー監視システム導入における課題
大きく分けて「導入コスト」「操作や運用の難しさ」の2つが挙げられます。SCADAとDCSを比較しながら、それぞれの課題について解説します。
●導入コスト
SCADAは、自社のニーズに合わせていろいろな機能を追加できるなど、自由にカスタマイズできるところに魅力があります。しかし、追加機能やカスタマイズが増えると、その分、本体価格に上乗せされて導入コストが上がっていくことには注意が必要です。
DCSは、自社が求める仕様に開発された状態で導入する必要があるため、初期コストに関しては一般的にSCADAより高くなる傾向があります。また機能の拡張やプログラムの改造には専門的な技術を要するため、都度メーカーなどに開発を依頼する必要があります。
導入時だけでなく、運用を続ける中で発生するシステムのメンテナンス・更新費など、将来的な追加コストも考えておかなければなりません。
導入コストは大きな課題のひとつではありますが、それだけで導入可否を判断してしまうことは薦められません。本当に自社にとって必要な機能は何か、その機能を活用して脱炭素の取り組みを推進するとどのような効果が期待できるのか、といった中長期的な視点で考えながら検討することが大切です。
●操作や運用の難しさ
SCADAは、製品により監視システムの構築にプログラミングが必要な場合があるため、操作や技術面に不安を抱える企業もあります。また、SCADAに搭載されているドライバによっては、既存のRTUやPLCなどとつなげられないこともあり、その場合はエネルギー監視システムとしての役割を十分に果たせない可能性が考えられます。
DCSも操作性は製品により異なります。基本的にメーカーが開発を行うため、自由にカスタマイズできないことにデメリットを感じる場合もあるかもしれません。
自社で効率的に操作や運用ができるか、という点は、エネルギー監視システムの比較検討時の重要なポイントとなります。どんなに良いシステムでも、使いこなせなければ導入するメリットを実感しづらくなります。加えて、既存設備との親和性や出力データの理解や分析のしやすさ、メンテナンスなどサポートの充実度などの要素も、脱炭素の取り組みを前提に導入する場合、必ず確認しておきたいポイントです。
エネルギー監視システムは種類が豊富です。導入を検討するシステムについては、紹介した課題を解決できるよう、特徴やメリット、デメリットをしっかりと理解し、不明な部分があれば導入前に解決しておきましょう。
エネルギー監視システム導入後に活用できる補助金制度
エネルギー監視システムの導入によって、電気などエネルギーの使用状況が“見える化”された後、GHG排出量削減に向けた次のフェーズで検討すべき施策のひとつに、エネルギーを使用する機器を省電力のものに入れ替える方法があります。
しかし、入れ替えの規模や導入する機器によって多額のコストが障壁となる場合もあります。そのような局面で活用できるのが、経済産業省・資源エネルギー庁が実施する「省エネ支援策パッケージ」という事業者向けの補助金制度です。
この制度は、企業の脱炭素化を推進すべく、工場のボイラーやビルの空調設備などを、省エネ型の機器へ更新する際の費用を支援するものです。
具体的には、事業区分が「工場・事業場型」「電化・脱炭素燃転型」「設備単位型」と3つに分類され、それぞれ該当する事業内容、省エネ効果の要件、補助率、補助限度額が異なります。
このうち「電化・脱炭素燃転型」は、令和5年度の補正予算において新設された、中小企業の活用を念頭にした施策です。脱炭素を目的とした、化石燃料から電気や低炭素への燃料への転換に伴う設備等の導入を支援します。
制度の適用を受けるには、定められた要件に合致する必要があります。最新の情報をよく確認し、自社において活用できるのか検討することが大切です。
出典:一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)ウェブサイト|「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」(https://syouenehojyokin.sii.or.jp/124business/)、
経済産業省 資源エネルギー庁ホームページ|「省エネ支援策パッケージについて」を参照。
(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/government/package.html)(2024年3月13日時点)
4. まとめ
エネルギー監視システムは、脱炭素経営の手段としてまだ十分には浸透していないかもしれません。しかし、電気などのエネルギー使用量の“見える化”はGHG排出量削減の取り組みを加速させる重要な鍵となります。
また活用の仕方によっては、脱炭素以外の視点でも省人化や省力化、企業価値の向上、エネルギーコストの削減など、企業に多くのメリットをもたらす可能性もあります。そうしたメリットを享受しながら、脱炭素化の目標達成を目指すためには、必要に応じて専門家に相談しながら、自社のニーズに適したシステムを選ぶことが非常に大切です。
執筆者:吉田裕美