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脱炭素経営を実践するために重要な3つのステップ
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執筆者プロフィール
高牟礼昇
Noboru Takamure
オーストラリア最古の大学であるシドニー大学のSchool of Physicsで研究員として勤務し、ガラスや次世代太陽電池と言われているペロブスカイト太陽電池、水素の電気分解などカーボンニュートラルに関係する分野の研究を行う。現在はシドニー大学の客員研究員として研究を行う傍ら、山梨県で研究開発サービスを行う株式会社マッケンジー研究所を設立し研究開発サービス及び脱炭素コンサルティングなどを行っている。
脱炭素に向かう社会の中、これまでの価値観に加えて気候変動対策および環境対策を通して様々な価値が現れています。このような社会の中で会社を運営していくためには、時代に即した経営が求められています。この気候変動対策を取り込みつつ利益を上げる経営手法は脱炭素経営と呼ばれており、日本のみならず世界的に注目されつつあります。本記事では脱炭素経営実践のための「知る」「測る」「減らす」の3ステップについて解説します。
1.「 脱炭素経営」とは?
日本は2020年に「カーボンニュートラル宣言」をしました。この中で2030年にはCO2の実質排出量を2013年比で46%削減、そして2050年には実質排出量をゼロにする目標を立てています。このため、日本政府は脱炭素へと舵を切っており、現在各省庁が主体となって新しい法律が制定されると共に、気候変動対策を踏まえた政策が実行されています。
脱炭素へ向かう社会ではCO2の排出が制限されることに伴い新しい価値が創出されると共に、社会の仕組みの変化によりビジネスチャンスが現れます。このような流れの中で気候変動対策を行いつつ、新しく現れた価値により利益を上げることを目指す経営は「脱炭素経営」と呼ばれ、注目度が高まっています。
出典:経産省|2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html)ページ内「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(概要資料)」をもとに編集、加工し作成。
(2023年12月13日時点)
脱炭素経営のゴールは?
では脱炭素経営で目指す目標とはどのようなものなのでしょうか? 端的に言えば、最終的な気候変動対策に貢献しつつ業績を上げることです。気候変動対策を行うとその分コストがかかります。一方で、脱炭素へ向かう社会ではカーボンプライシングや環境価値と言った新しい価値が生み出されます。他にも投資家からESG投資を受けやすくなったり、補助金や人材を獲得しやすくなったりするなど、様々な付加価値も期待できます。つまり経営のコストを価値が上回れば、脱炭素の社会の中で企業として成長を見込むことができます。
このように、気候変動対策を行うことでコストを払いつつも、新しく生み出される様々な価値を上手く使い利益を上げ、脱炭素を行う次世代の企業へと成長させること。それが脱炭素経営のゴールと言えます。さらには、次世代の子供たちに気候変動という負の遺産を残さないことも期待されています。
脱炭素経営に必要な3ステップ「知る」「測る」「減らす」
環境省は脱炭素経営を実践するにあたり、段階的に「知る」・「測る」・「減らす」の3つのステップを実行に移すことを推奨しています。まずは脱炭素経営について「知る」ことに加えて、自社およびサプライチェーンのCO2排出量を「測る」必要があります。排出量が計算できれば削減できる箇所を特定できるので、対策を立てて「減らす」ステップを実行できます。
ここからは脱炭素経営に重要なこの3つのステップについて、詳しく解説していきます。
2. 「知る」について
脱炭素経営は気候変動対策に関連する情報収集から始まります。これまでの世界的な脱炭素の流れや企業に求められている環境対策など世の中の流れを知ることに加えて、市町村・都道府県といった地方自治体による政策や補助制度についても注目する必要があります。またサプライチェーン全体で実践されている脱炭素に向けた取り組み事例や要請等を把握することや、環境意識の高まりに敏感な消費者のニーズにも応えられるよう、その動向を注視しておくことがおすすめです。また、脱炭素に伴い様々なシステムが誕生していますので、このようなシステムについてもしっかりと調べておく必要があります。ここでは、脱炭素経営の最初のステップの「知る」について説明します。
気候変動・脱炭素経営に関する情報を集めよう
脱炭素経営を知るにはまずは気候変動対策について知る必要があります。気候変動対策の基本はCO2排出削減ですが、最も始めやすい削減方法は節約です。電気やガソリンを節約することでCO2排出量は削減できますが、節約には限界がありますので、徹底しすぎると逆に会社経営に悪影響を与えてしまいます。
今後はCO2を排出する際に課税される炭素税を始めとして、排出に値段を付けるシステムであるカーボンプライシングも本格化してくることが見込まれます。これらのトレンドは常に変化しますので、その都度必要な情報を仕入れることが大切です。
また地方自治体においては、各自治体で脱炭素にかかわる補助金が多数用意されています。実際にCO2削減事業を進めるにあたってのコスト面を鑑みると、全国の企業から応募が殺到する国や省庁による補助金だけでなく、各地域の自治体で交付される補助金も積極的に利用していく必要があります。それぞれの補助金には条件面や補助対象、公募期間などの公募要領が設けられており、年度ごとに情報が更新される場合が多いため、各自治体のホームページを注視することも必要です。また民間企業が運営する補助金情報をまとめたポータルサイトもいくつかありますので、こちらも活用していきましょう。
省庁主導の参考資料
カーボンニュートラルの政策は主に環境省と経済産業省により主導されています。環境対策や脱炭素実施の支援に関しては環境省により、脱炭素の国家戦略の作成や技術開発サポート、各種補助金交付などは経済産業省により行われています。
これらの省庁が作成し公表している参考資料は沢山ありますが、その中でも脱炭素経営に参考になるサイトをご紹介いたします。
グリーン・バリューチェーンプラットフォームは環境省が主催する脱炭素経営を支援するためのサイトです。このサイトではCO2排出量の算出方法や各種排出原単位の記載、また様々な企業が行ったCO2排出量の算出例が掲載されています。特に、脱炭素経営ガイドには、脱炭素経営を考えている企業にとって有益な資料が各種準備されています。
- 環境省「業種別取組事例一覧」
- 環境省「排出量算定について」
- 環境省「脱炭素経営ガイド」
②経済産業省:温暖化対策
温暖化対策は経済産業省ホームページ内にある経済産業省が主導する各種温暖化対策をまとめたページです。このページ内にはグリーン成長戦略やグリーンイノベーション基金、J-クレジット制度など政府が主導する様々な政策についての最新情報を知ることができます。
- 経産省「グリーンイノベーション基金」
- 経産省「J-クレジット制度」
これらのページでは日本政府の方針を知ることができるので、脱炭素経営を行う際には是非チェックしておきたいサイトです。
脱炭素経営への社内理解を深めよう
脱炭素経営に必要な情報が集まり、会社の方針が定まったら次は社内のコンセンサスを取る必要があります。まずは内容を経営陣と話し合い、将来的な削減戦略を立てます。次に社員へ説明を行い理解と協力を求めます。
削減戦略を策定する際には、短期および中長期的な視点による検討が必要です。短期的には燃料や電気の節約により対応できますが、節約のみで削減量を増やしていくことは現実的ではありません。中長期的には低炭素の設備への切り替えや太陽光発電設備などの再エネ発電設備の導入の検討等が必要になります。このように、削減戦略は短期的、中長期的に分けて策定する必要があります。
また、新しい低炭素技術の登場も注意深く見ておく必要があります。現在、様々な業界で低炭素の技術が開発されつつあり、新技術を取り入れた設備や製造プロセスを導入することでも排出量が削減できます。脱炭素経営では現在の会社の設備等の状態を確認しつつ優先順位をつけ、毎年の排出量目標を達成できるように削減戦略を経営計画に盛り込むことが求められます。
このように、脱炭素経営は専門的な知識が必要になりますので、企業の特性に合わせて脱炭素経営に関する情報収集やCO2排出量削減のための戦略策定などを行う部署や委員会を設立すると共に、どうすれば利益を生み損失を回避できるかを明らかにすることで、全社員で収益化と共に脱炭素の実現を目指していくことができます。
3. 「測る」について
脱炭素経営に必要な情報を集めながら、次にCO2排出量を測ります。自社の施設や製造工程から排出されるCO2排出量を算出することで具体的数字として「見える化」ができます。見える化することで、排出量の多い工程や削減しやすい工程などが明らかになります。
実際の排出量の計算は活動量と排出原単位を掛け合わせます。このため、活動量と排出原単位をあらかじめ調べておく必要があります。以下で計算方法を詳しく解説します。
活動量・排出係数とは?
活動量とは企業活動によって生じた時間や重さ、体積、金額、電力量などの量を表し、CO2排出量はこの活動量に比例します。一方の排出原単位は排出係数とも呼ばれており、単位活動量当たりのCO2排出量を表します。この排出原単位は、活動量と排出原単位を掛け算することでその活動量におけるCO2排出量がわかります。
CO2排出は化石燃料を使用した発電や電気の使用、ガソリン自動車による輸送、ボイラー燃焼など様々な形で行われていますので、活動量も多くの種類があります。それぞれの活動量に応じた排出原単位を集め排出量を計算します。
活動量を調べよう
活動量を調べるには、まずガソリンや電力料金のレシートや請求書を調べることから始めます。ガソリンを購入した際のレシートには何リットルのガソリンを購入したか記載されており、電力料金の請求書には何キロワット時の電力量を使用したかが記載されています。これらの数字が活動量に該当しますので、この数字を集めます。
次に該当する排出原単位を調べます。原単位の一覧は環境省の温室効果ガス 算定・報告・公表制度に掲載されており、その数字を計算に利用することができますので、参考にしてください。
出典:環境省 温室効果ガス 算定・報告・公表制度「算定方法・排出係数一覧」(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc)
(2023年12月13日時点)
自社のCO2排出量を計算しよう
実際に排出量の計算をしてみます。以下の式が基本計算式です。ポイントは活動量と排出原単位の単位を揃えることです。原単位がリットルになっていると活動量もリットルでなければ正確な排出量は計算できません。
活動量×排出係数=CO2排出量
今回はガソリンと電気について計算してみます。仮にガソリンの排出原単位を2.32tCO2/kl、電気の原単位を0.457 kgCO2/kWhとします。tCO2/klとは、ガソリン1klを燃焼させた時のCO2排出量で、kgCO2/kWhは1kWh発電する際のCO2排出量を示します。
使用したガソリンの量を20L(=0.02kl)、電力量を10kWhとすると排出量は以下の計算により算出されます。
ガソリン使用による排出量
0.02kl×2.32tCO2/kl=0.046tCO2
電力使用による排出量
10kWh×0.457 kgCO2/kWh=4.57kgCO2
ガソリン20L使用に伴うCO2排出量は46kg、電気10kWh使用に伴う排出量は4.57kgとなりました。
出典:環境省 温室効果ガス算定・報告・公表制度|制度概要資料(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/about/document)ページ内「「令和元年度算定・報告・公表制度説明会」資料分割版|(参考1)算定方法・排出係数一覧」、
算定方法・排出係数一覧(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc)ページ内「電気事業者別排出係数一覧」を参照。
(2023年12月13日時点)
計算結果から削減ポテンシャル・ターゲットを把握しよう
CO2排出量が計算できれば、自社が事業に伴いどれだけのCO2を排出しているか把握できます。また、事業所や製造工程ごとの排出量も把握できます。これにより、どの工程の排出量が削減しやすいかもわかります。計算結果をもとに、自社事業においてどの工程でCO2排出量を削減することが可能なのかを知ることが大切です。
まずは削減量を把握しやすいところから手をつけてみましょう。短期的には排出量の削減には化石燃料の使用を減らすことが効果的です。例えば営業車両をガソリン車からEVに置き換えると、どちらがよりCO2排出量が少ないか比較してみるのも良いでしょう。両者の排出量を算出して比較することにより合理的な判断を行うことができます。
長期的には排出量の多い設備や製造プロセスの低炭素化が必要になります。どの事業所から、もしくはどの工程からの排出が多いかがわかれば、どこから削減を進めていくとよいかもピンポイントで知ることができます。一方で、無理に削減を進めてしまうことで経営を圧迫する恐れがあるので、削減戦略と経営戦略が整合するように集計結果から削減ポテンシャルとターゲットを適切に把握することが大切です。
4. 「減らす」について
最後の「減らす」のステップではいよいよ具体的な削減活動を開始します。「測る」で算出したCO2排出量を見ながら、どの部分を減らせるか検討すると共に自社にとって最もやりやすい対策方法も合わせて検討します。そのためにはまず「測る」の工程の後、削減ポテンシャルやターゲットを確認しながら、効果的な対策をリストアップしていく必要があります。その後にロードマップの策定し、ロードマップに沿って削減活動を行います。
ロードマップを策定しよう
CO2排出量の計算が完了し、排出量削減のポテンシャルを見積もることができると実際に削減目標を定めて排出量削減のためのロードマップを策定します。日本政府の直近の目標は2030年に2013年比で46%削減することですので、この目標と歩調を合わせて削減目標を設定することが現実的です。また、具体的な削減方法は自社のコストと利益のバランスにより決めることになります。
一方で、削減の基準を決めておく必要もあります。会社の規模は年々変化し、会社が大きくなると排出量も上がりますので、この場合の削減量の定義は売上1億円当たりの排出量とすることなどが考えられます。
省エネしよう
簡単でお手軽な削減方法は省エネです。単にガソリンや電気を節約することでもCO2排出削減ができますが、省エネ設備や再エネ導入などにより排出量を下げていくことも有効です。これにより節約効果が出ると共に化石燃料および電気の使用による排出を抑えることができます。過剰な節約は安全面や従業員の健康面に影響を与えますので、業務とのバランスを見ながら行うことが大切です。
オフィスのCO2排出量削減の仕方
オフィスからの排出は主に電気による排出です。このため、節電することが有効ですが、その他にも電力プランを選択することでも削減することが可能です。電力プランによっては再エネ由来の電気の割合が大きく、排出係数の低い電気を購入することができますので、このような電力プランを契約することで電気使用による排出量の削減が可能になります。
他にも建物をZEBやZEH化して省エネ化することでも排出量を削減できます。ZEHやZEBは高い省エネ性能を持った上、太陽光パネルによる発電により年間のエネルギー収支を差し引きゼロにできる建物で、省エネの高まりと共に今後増えていくと考えられています。
製造業のCO2排出量削減の仕方
製造業のCO2排出は化石燃料の燃焼による排出のみではなく、原料の加工に伴う排出があります。このようなCO2の排出は非エネルギー起源と呼ばれており、化石燃料燃焼によるエネルギー起源の排出とは区別される場合があります。
非エネルギー起源のCO2排出量削減は技術的な課題となっており、CO2を排出しない、もしくは生成したCO2を捕集する新技術の開発が進んでいます。特に、鉄鋼業では炭素の代わりに水素を使って鉄鉱石を還元する技術課発が進んでおり、製造過程でのCO2放出量が少ない鉄鋼はグリーンスチールと呼ばれ、今後価値が高まると考えられます。
CO2排出量を削減したらどうなる?
CO2排出量を削減すればそれだけ気候変動対策に貢献したことになります。貢献した企業は環境的な付加価値を得ることができますので、脱炭素経営をしていない会社よりも人材の確保がしやすくなり補助金の支給も受けやすくなります。
また、将来的には各企業にCO2排出枠が割り当てられることになり、この排出枠内にCO2の排出を抑えることが義務付けられますが、脱炭素経営を行うことで排出量を排出枠内に収めることができる上、排出枠から下回った排出量をクレジット化して販売することも可能になります。さらに、今後本格的に導入される可能性が高いカーボンプライシングの支払いも排出量削減により減らすことができます。
5. まとめ
今回は脱炭素経営の基本である、「知る」「測る」「減らす」のステップを解説しました。このステップに沿って脱炭素経営を実践することで、他社に比べて経営上有利になり、カーボンニュートラルを目指す社会の中でよりプレゼンスを高めることができるようになります。今後は「知る」「測る」「減らす」の3つのテーマをより深く掘り下げて解説します。
執筆者:高牟礼昇