業界別GHGの排出傾向を知ろう!自動車メーカー編

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執筆者プロフィール

高牟礼昇

Noboru Takamure

オーストラリア最古の大学であるシドニー大学のSchool of Physicsで研究員として勤務し、ガラスや次世代太陽電池と言われているペロブスカイト太陽電池、水素の電気分解などカーボンニュートラルに関係する分野の研究を行う。現在はシドニー大学の客員研究員として研究を行う傍ら、山梨県で研究開発サービスを行う株式会社マッケンジー研究所を設立し研究開発サービス及び脱炭素コンサルティングなどを行っている。

様々な業界のサプライチェーンのGHG排出量の特徴および傾向を紹介する記事の第二弾となる今回、製造業の中でも自動車メーカーにスポットを当て、傾向を分析します! 自動車メーカー各社が公表しているこれまでのGHG排出量のデータを集計し、そのデータに基づいてGHG排出量の傾向を分析し、自動車業界特有のGHG排出量の傾向を浮き彫りにします。同時に、自動車メーカーが抱えているGHG排出量の削減における様々な課題とその解決方針についても解説します。

1. 気候変動下における自動車メーカーの現状

人為的な活動に基づく気候変動の危険性が叫ばれている昨今、世界を上げて気候変動対策が始まりました。気候変動対策の大きな柱は温室効果ガス(GHG)の排出量削減です。このため、産業界でもGHGの排出量削減の取り組みが必要になっています。

気候変動は企業に対し、2つのリスクをもたらす可能性があります。気候変動に伴う風水害の発生や海面上昇などにより物理的に被害を受ける可能性がある物理的リスクと、経済的損失や事業上・財務上の損失など脱炭素社会に移行していく中で生じる移行リスクの2つです。すでに脱炭素社会の実現に向けて動き出す世界で、こうしたリスクに対応する企業は続々と増えており、その動きは自動車メーカーにも波及し始めています。

ここでは気候変動に伴い自動車メーカーが受けるリスクとSBT認定の申請件数など現在の自動車メーカーの脱炭素の取り組みを紹介します。

自動車メーカーにおける気候変動によるリスク

まずは物理的リスクから説明します。気候変動下では、地球温暖化と共に異常気象が頻発することが考えられていますが、特に洪水や台風などの大規模化により、被災した自動車製造・部品工場の損害が大きくなる恐れがあります。また、自然災害により交通にも影響が出るため、輸送が滞り生産がストップすることが懸念されています。

加えて、自動車メーカーのサプライヤーは世界規模であるため、海外にある部品工場の一つが稼働停止しただけでもサプライチェーンが分断され、生産に影響が出る可能性もあります。自動車メーカーでは、このような物理的リスクが発生すると懸念されています。

一方、移行リスクの一つとして挙げられるのは、炭素税などカーボンプライシングの本格導入による自動車・部品製造コストの上昇です。また、燃費規制や排ガス規制により内燃機関の使用が制限されると、従来のガソリン車の販売ができなくなる可能性があるため、その分売り上げが低下する可能性も高まります。さらに、再エネ由来電力の固定価格買取制度(FIT)による賦課金で電気代が上がると、その分エネルギーコストが増大するリスクが出てきます。

自動車メーカーが気候変動によるリスクへの対処について考える場合、この2側面から検討していく必要があります。

自動車製造業界のSBT申請傾向

ここからは自動車メーカーに自動車部品メーカーを加えた自動車製造業界全体のSBTの申請傾向を見ていきます。自動車製造業界全体の年間SBT申請数は、年々増加しており、2023年12月現在では、自動車製造業界では61社が申請をしています。

特に日本は諸外国に比べて中小企業の申請数が多くなっており、自動車製造業界の各国の申請数全体のうち、中小企業の申請数の割合がイギリスは約33%、ドイツは約26%、韓国は約20%、アメリカに至っては0%である中、日本は約74%をも占めています。

年度 大手企業 中小企業 年間合計
2021 3 4 7
2022 4 15 19
2023 9 26 35

日本の自動車メーカーでは日産自動車が2021年に申請をしており、2030年までの短期的な削減目標を表す「NEAR TERM」でSBTを定めているのみではなく、GHG排出量の削減を行い、削減しきれないGHGを植林などにより吸収することで相殺する取り組みである「NET-ZERO」にもコミットしています。2022年にはトヨタ自動車が申請しており、こちらはNEAR TERMのみのSBT設定になっています。2023年にはトラックメーカーであるいすゞ自動車がNEAR TERMにコミットしており、自動車メーカーとしては2023年12月現在でこれらの3社がSBT申請を行っています。

社名 申請年度 NEAR TERM NET-ZERO
日産自動車株式会社 2021年 Well-below 2℃ / Well-below 2℃ by 2030 COMMITTED
トヨタ自動車株式会社 2022年 1.5℃/ Well-below 2℃by 2035/2030
いすゞ自動車株式会社 2023年 COMMITTED

出典:SBT COMPANIES TAKING ACTION

https://sciencebasedtargets.org/companies-taking-action)、

環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム|排出削減目標設定|SBT全般(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html#no00)ページ内「SBT 詳細資料」を編集し、作成。

(2024年1月23日時点)

2. 自動車メーカーのGHG排出量の傾向

サプライチェーンのGHG排出量は業種により傾向に特徴がありますが、自動車メーカーにも特有の特徴があります。ここでは自動車メーカーならではのGHG排出量の傾向をその理由とともに解説します。

まずはScopeごとのGHG排出量の傾向から見ていきます。以下に自動車メーカーのGHG排出量の割合を平均化したグラフを示します。このグラフは自動車メーカー4社のGHG排出量の13のサンプリングデータを抽出し、作成しています。自社排出であるScope 1とScope 2の合計は全体の2%にも満たず、サプライチェーンのGHG排出量における自社のGHG排出量の割合は非常に小さいと言えます。一方、ほとんどのGHG排出量は自社からの排出ではなく、自社以外の間接排出で、なんとそのGHG排出量の割合は98.1%にもおよびます。

つまり自動車メーカーにおいて、GHG排出量を削減していくにはScope 3のGHG排出量の傾向を見ていく必要がありそうです。

自動車メーカーのScope 3のGHG排出量の内訳

ここからはさらにScope 3のGHG排出量の内訳を詳細に見ていきます。Scope 3のGHG排出量の割合が圧倒的に多いカテゴリは「販売した製品の使⽤による排出」であるカテゴリ11です。このカテゴリだけでScope 3のGHG排出量の約84%を占めています。次に多いカテゴリは「購⼊した製品・サービスからの排出」であるカテゴリ1で、こちらはScope 3全体の約11%となっています。またこれは自社排出を含むサプライチェーンのGHG排出量においても同様で、自動車メーカーではこのカテゴリ1と11からのGHG排出量が95%と、大変多くなっていることがわかります。

他にも輸送や資本財からの排出であるカテゴリ2およびカテゴリ4、9のGHG排出量がわずかにあり、これらのカテゴリからのGHG排出量が自動車メーカーのGHG排出量のほぼ全てとなっています。このGHG排出量の傾向は今のところ、全ての自動車メーカーに当てはまっており、これは自動車メーカー特有の傾向と言えます。

自動車メーカー 排出源 排出割合 標準偏差
Scope 1 自社直接排出 0.5% 0.1%
Scope 2 自社間接排出 1.3% 0.3%
Scope 3 カテゴリ1 購⼊した製品・サービス 11.1% 3.2%
Scope 3 カテゴリ2 資本財 0.6% 0.2%
Scope 3 カテゴリ3 Scope1,2に含まれない 燃料及びエネルギー活動 0.2% 0.1%
Scope 3 カテゴリ4 輸送、配送(上流) 0.6% 0.6%
Scope 3 カテゴリ5 事業から出る廃棄物 0.1% 0.0%
Scope 3 カテゴリ6 出張 0.1% 0.1%
Scope 3 カテゴリ7 雇⽤者の通勤 0.1% 0.1%
Scope 3 カテゴリ8 リース資産(上流) 0.0% 0.0%
Scope 3 カテゴリ9 輸送、配送(下流) 0.4% 0.2%
Scope 3 カテゴリ10 販売した製品の加⼯ 0.0% 0.0%
Scope 3 カテゴリ11 販売した製品の使⽤ 84.2% 3.4%
Scope 3 カテゴリ12 販売した製品の廃棄 0.5% 0.5%
Scope 3 カテゴリ13 リース資産(下流) 0.2% 0.1%
Scope 3 カテゴリ14 フランチャイズ 0.0% 0.0%
Scope 3 カテゴリ15 投資 0.0% 0.0%
※サンプルデータ数:N=13

出典:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム|取組事例|業種別取組事例一覧

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/case_smpl.html)、

日産自動車|サステナビリティレポート2013〜2022を参照。

(2024年1月23日時点)

自動車メーカーのScope 3のGHG排出の要因は?

自動車メーカーにおいて、GHG排出量が多いのはScope 3のカテゴリ1、そしてカテゴリ11であることがわかりました。ここからはその2カテゴリについて、GHG排出量が多くなる要因を探っていきます。

カテゴリ1は「購⼊した製品・サービスによる排出」ですが、これは鉄鋼やゴム、アルミニウムなど自動車の原材料の製造時のGHG排出を表しています。

一方カテゴリ11は「販売した製品の使⽤による排出」であり、これは製造、販売した自動車の使用に伴うGHG排出です。現時点ではトラックなどを含めて、販売されている大半の車両は化石燃料を使用していますので、この化石燃料の使用によるGHG排出を示しています。この自動車の使用によるGHG排出量は、製品の燃費、生涯走行距離、使用年数、地域を考慮して自動車メーカーごとに算出されています。

以上より、自動車を製造するための原材料製造及び自動車を使用するための化石燃料使用のGHG排出量が自動車メーカーのサプライチェーンのGHG排出量の95%を占めており、このGHG排出量の削減が最大の課題であると言えます。

3. 自動車メーカーのScope 3におけるGHG排出量削減方法

自動車メーカーのGHG排出量を削減するためには、Scope 3のカテゴリ1とカテゴリ11のGHG排出量の削減に重点を置く必要があります。

カテゴリ1のGHG排出量の削減には、材料製造時のGHG排出量使用する電気の発電時のGHG排出量を減らす必要があります。材料によっては鉄鋼のように鉄鉱石中の炭素の還元による非エネルギー起源のGHGを排出するものもありますので、購入する材料などの製造元による省エネや高効率設備の導入、GHG排出量の少ない素材の使用、および非エネルギー起源のGHG排出量を抑えるプロセスの開発も必要になります。

カテゴリ11に関してはガソリンなど化石燃料の使用量を減らすことが重要になります。このため、自動車メーカー各社では化石燃料を使用せず、走行時に排気ガスを出さない電気自動車(EV)燃料電池自動車(FCV)のようなZEV(Zero Emission Vehicle)の製造に転換しつつあります。また、化石燃料を使用しますが燃費が良いプラグインハイブリッド車(PHEV)への転換も有効な削減方法になっています。

先進企業による削減方法事例紹介

自動車メーカーのScope 3のカテゴリ1のGHG排出量の削減方法として、自動車に大量に使用される材料である鉄をグリーンスチールに置き換えることが挙げられます。グリーンスチールはHBI※を原料にしたり、水素を活用して製鉄したりすることで、製造時のCO2排出量を削減した鉄鋼です。また、特性の異なる原料が混合される場合に、ある特性を持つ原料の投入量に応じて生産する製品の一部にその特性を割り当てる「マスバランス方式」を適用したグリーンスチールも流通しています。マスバランス方式を適用したグリーンスチールはCO2を100%削減することも可能になっています。BMWをはじめとして、こうしたグリーンスチールの使用を表明している自動車メーカーも現れ始めています。

他にも様々な材料で低炭素な製造方法が開発されつつあり、様々な低炭素の素材を使用することでさらなるGHGの排出量の削減が期待できます。

※HBI:長距離輸送のために、高温の還元鉄をある程度の大きさに押し固めたもの。Hot Briquetted Ironの略。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁ホームページ|スペシャルコンテンツ|鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~「グリーンスチール」とは何か?

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/green_steel_01.html)、

環境省ホームページ|環境再生・資源循環|マスバランス方式に関する検討

https://www.env.go.jp/recycle/plastic/related_information/workshop/workshop_00001.html#:~:text=%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E6%96%B9%E5%BC%8F%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%81%8C%E9%81%A9%E7%94%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A4%E3%81%A4%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82

(2024年1月23日時点)

カテゴリ11のGHG排出量削減の取り組みとしては、これまでにも見てきた通り、EV・FCVといったZEVやPHEVの導入が少しずつ増えてきています。

中でもEVはカテゴリ11のGHG排出量の削減方法として世界的に受け入れられています。一方で、既存のガソリン車と比較してもEVの販売価格が高いことや、EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーの劣化により容量が低下しやすいことなどを理由に、日本でのEVの販売台数はあまり伸びていません。このリチウムイオンバッテリーの欠点を補う次世代電池として全固体電池が期待されています。トヨタ自動車はいち早く全固体電池の実用化を目指しており、2027年から2028年の市場投入を目指しています。

出典:トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト|ニュースルーム|最新ニュース|出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始

https://global.toyota/jp/

(2024年1月23日時点)

日本の自動車メーカーではトヨタ自動車のみがFCVの開発および販売を行っています。一方で、FCVの世界的な販売台数はまだ少なく、EVの販売台数の方がはるかに多くなっています。この背景には、FCV用の燃料であるグリーン水素やブルー水素など低炭素の水素の供給が進んでいないことに加えて水素ステーションの数も少ないため、水素インフラに難があることが挙げられます。

PHEVはHVの搭載バッテリー量を増やし、外部から充電できるようにした車です。このためガソリン車の利点とEVの利点を併せ持っており、高燃費を実現しています。しかも、ガソリンを使用せずに電気のみで走行も可能ですので、使い方によりGHG排出量を下げることが可能になります。EVやFCVに比べて車両価格も安く購入時に補助金も出るため、人気となっています。しかし、走行時にGHGを排出するために、将来的には規制の対象になる可能性が懸念されます。

PHEVのみならず、EVやFCVの開発にも力を入れているトヨタ自動車では、カテゴリ11のGHG排出量の削減課題の解決に向けて、2019年を基準年にして2035年に新車の走行における平均GHG排出量を50%以上削減する「新車CO2ゼロチャレンジ」に取り組んでいます。

出典:トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト|サステナビリティ | 気候変動

https://global.toyota/jp/

(2024年1月23日時点)

4. 脱炭素から派生する可能性がある新しいビジネスチャンス

GHG排出量の削減に伴い様々なリスクが出現する一方で、ビジネスチャンスが現れる可能性があります。現在、自動車メーカーでは化石燃料の使用量削減のため、既存のガソリン車からEVやFCV、PHEVへの置き換えが進んでいます。

こうしたEVやFCV、PHEVは蓄電池や発電機としても使用できますので、災害時に非常用の電力供給源として活躍できるとともに、太陽光発電設備と組み合わせることで余剰電力を蓄電することも可能になります。さらに、送配電網に接続するとバーチャルパワープラント(VPP)のリソースの一つとして機能しますので、電力効率の向上効果も期待できます。

これまで見てきた通り、EV、FCVといったZEVやPHEVの製造はGHG排出量の削減にも大いに貢献する可能性のあるものでした。今後の脱炭素社会を見据えると、ビジネスチャンスともなりうるZEVやPHEVの存在は自動車メーカーに欠かせないものとなるかもしれません。

これに加えて、自動運転化や飛行化などの新技術の実用化も進んでおり、新技術の導入に伴いこれまでになかった需要が生まれてくる可能性があります。短期的には自動運転が実用化され、長期的には自動車は道路を離れて空を飛ぶようになる可能性があります。実際、様々なメーカーが空を飛ぶ車を開発しており、実用化に近づきつつあります。一方でこのような新しい自動車形態への移行においても脱炭素化は欠かせないものと考えられているため、脱炭素社会に適応するために開発してきた技術を流用していくことを念頭に新しい視点を持つことで、競争力の高い製品の開発が期待できます。

5. まとめ

自動車メーカーのGHG排出量を分析した結果、Scope 3のカテゴリ1とカテゴリ11からの排出量が全体の約95%に達していることがわかりました。これらのカテゴリからのGHG排出量の削減を行うために、低炭素の素材の使用およびEVやFCVといったZEVへのシフトが行われています。特にZEVへのシフトは脱炭素社会におけるビジネスチャンスとしても、注目度がどんどん高まっていきそうです。

執筆者:高牟礼昇