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人材の育成とネットワーク化が「脱炭素ドミノ」の起点に|jeki × 環境省対談
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近年、日本では多くの企業や自治体が「脱炭素」を優先課題と位置づけるようになり、関連の取り組みを加速させています。サステナブル推進や脱炭素に特化した部門を新設するケースが増えていますが、官民ともに、温室効果ガス(GHG)の可視化や排出量削減、脱炭素を推進する組織づくりの知見を持った人材の不足に頭を悩ませています。
脱炭素分野における人材不足を解消すべく、環境省は「地域脱炭素実現に向けた中核人材の確保・育成委託業務」(以下、委託業務)をスタートさせました。この委託業務は、地方自治体職員に対し地域再エネ事業の基礎を学ぶためのオンライン講座を提供する事業『はじめよう!地域再エネセミナー』、脱炭素に取り組みたい地方公共団体と、脱炭素に関する知見を有する民間事業者を結びつける事業『地域脱炭素ネットワーキングイベント』、脱炭素に関する専門的な知識や経験を持つ専門家やアドバイザーを自治体に派遣する事業『脱炭素まちづくりアドバイザー』という3本の柱から構成されています。
令和5年、JR東日本グループの広告会社であり、地域創生につながるソーシャルビジネスの展開なども手掛ける株式会社ジェイアール東日本企画(以下jeki)は同委託業務を受託し、環境省とタッグを組んで各地域の脱炭素人材の育成支援に乗り出しました。地域脱炭素への貢献は企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。また、地域脱炭素の現場では何が課題にのぼり、どのような人材が求められているのでしょうか。環境省 大臣官房 地域政策課 地域循環共生圏推進室 佐々木 真二郎 室長、jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 東 伸樹さん(現東日本旅客鉄道㈱ 千葉支社 地域共創部 地域連携ユニット)、江川 勇太さんにお話をうかがいました。
先例のない取り組みには、人的ネットワークで対応する
──脱炭素推進において、人材不足の問題が浮上し、その解消に向けた取り組みが環境省主導で実施されるようになった経緯を簡単に教えてください。
環境省 大臣官房 地域政策課 地域循環共生圏推進室 佐々木 真二郎 室長(以下、環境省佐々木):きっかけは、2020年10月に当時の菅首相が表明したカーボンニュートラル宣言です。その日を境に国内のムードが一変し、メディアでは脱炭素という言葉が日常的に取り上げられるようになり、経済界でも真剣に取り組まねばならないという意識が広がりました。
それ以前の脱炭素の取り組みと言えば、東日本大震災を機に始まった電力の自由化などが代表的ですが、震災を経ても、日本の多くの地域でエネルギーに対する考え方が大きく変わることはなかったように思います。自治体においてもエネルギーを担当するセクションが明確でなく、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を導入する取り組みもほとんど見られませんでした。温暖化対策と言えば、住民への節電啓発が主流で、エネルギーの自給自足やコントロールといった発想はあまりありませんでした。
それがカーボンニュートラル宣言を機に変化し、地域において新たに発電事業をスタートさせる企業や、真剣に省エネに取り組む人々が増えた一方で、関連人材が不足している現状も浮き彫りになり、自治体や企業などから人材の育成や支援を求める声が広がりました。その要望に応えるため、人材育成の取り組みを本格化させた経緯があります。
──東日本大震災が端緒となり、その後のカーボンニュートラル宣言が決定打になったということですね。
環境省佐々木:はい。jekiさんと共同で運営している「脱炭素まちづくりアドバイザー制度(※地域脱炭素に取り組む地域を応援するために、地域脱炭素に関する専門的な知見を有するアドバイザーを派遣する制度)」ではアドバイザーの大幅な増員を計画中で、それに向けて現在、多くの方々と面談を行なっており、その過程で彼らの想いや得意分野について詳しく聞き取りを行なっています。そこでは、3.11をきっかけに、エネルギー自給に対する意識が大きく変化したという方も多く、自ら発電事業に着手するなど、意識と行動の変容も見受けられます。3.11から十数年が経過し、各地で脱炭素分野のリーダーシップの種が芽生え、本格的な取り組みへの道が開かれています。
──「種」である人材を中心に、スクラムを組んで脱炭素の取り組みを前に進めていこうということですか。
環境省佐々木:そうですね。環境省の地域脱炭素ロードマップ※では、先行地域から脱炭素のドミノ効果を生み出し、他地域へ波及させることを目指していますが、ドミノ効果を生み出すためには、どのような手法が適しているか十分に考慮する必要があります。地方創生も同様ですが、ある自治体が「観光」で成功したからといって、他の自治体が同じ取り組みを実践しても同じ結果が得られるとは限りません。地域の資源や状況、プロジェクトに参加する関係者などが異なるため、単純な横展開は非常に困難です。主にこうした理由から、地方創生は簡単に波及しないのです。
※知っておきたい脱炭素「地域脱炭素実現に企業が貢献できることとそのメリットとは?」を参照。
ドミノ効果を生み出すためにどうすれば良いかを検討した結果、そのカギを握るのが人材であるという結論に至り、今回の委託業務を始めました。脱炭素に通じた人材には困難に対処するための知恵や技術、そして壁を乗り越える力が必要ですが、壁にぶつかった時に孤立してしまうと挫折してしまう恐れがあります。困った時に助け合えるネットワークさえあれば、ドミノ効果が生まれて維持・継続する可能性が高まります。環境省では脱炭素に通じた人材同士が支え合えるよう、横のつながりを強化する仕組みづくりを強く意識しています。

環境省 大臣官房 地域政策課 地域循環共生圏推進室 佐々木 真二郎 室長
──jekiは今回委託業務に参画するにあたり、公募に参加されたかと思います。この経緯について教えてください。
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 東 伸樹(以下、jeki東):弊社はJR東日本グループの一員として、以前から「地域に根ざした」アプローチを信条とし、地域の活性化に資するプロジェクトを推進してきました。これまでにも、経済産業省(以下、経産省)などからエネルギー政策に関わる業務を受託し、地域の課題解決や活性化に貢献してきた歴史があります。今回の環境省の委託業務においては、脱炭素だけでなく地域の視点が重要視されることに特に着目しました。この委託業務では、脱炭素を地域の発展戦略の一環として捉えており、かねてから当社も同様のポリシーを採用していたことから、国が掲げる2050年までの脱炭素化目標に向け、自治体や民間企業が積極的に施策を進める中、当社のこれまでの経験とノウハウが有益であると判断し、参加させていただきました。
──環境省としても、実績のあるjekiとはタッグを組みやすかったという側面はありますか?
環境省佐々木: jekiさんのようなエネルギー分野の専門知識を有する企業との連携は、私たちの不足している分野を補完してくれるという大きなメリットがありました。jekiさんからの提案や具体的なご紹介は非常に有益で、私たちが見落としていた情報や新たな視点に気づかせてくれるケースも少なくなく、jekiさんとのパートナーシップによって、より効果的にエネルギー関連の課題に取り組むことができると頼もしく思っています。
jeki東:弊社はこれまでに地域創生や活性化に関する多くのノウハウを蓄積していますし、専門家の人的ネットワークについても幅広いリソースを持っています。それらを最大限に活用し、エキスパートをアサインしながら関係者と一体となって活動していきたいと思っています。
──地域の脱炭素化や脱炭素に関連する専門知識について、jekiにとっては外部のエキスパートからの助言が非常に重要だったのでしょうか?
jeki東:弊社も脱炭素の専門家として直接的な経験があるわけではありませんでした。ですので、地域の脱炭素化に関わる先駆者や専門家、そしてパートナーとの連携は、ノウハウや知見を蓄積するうえで極めて重要だったと考えています。
──これまでにない取り組みだけに、ネットワークを活用して、適切なエキスパートをチームに組み込むことが大切だということですね。
jeki東:やはり人的ネットワークが充実していると、多角的な視点で課題を分析できるという利点があります。ありがたいことに、開催しているセミナーやイベントは盛況で、様々な立場の方々にご参加いただいています。

jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 東 伸樹さん
脱炭素推進のカギを握る「利害調整力」
──今回の委託業務では、様々なオンライン講座やセミナーを通じた脱炭素人材の育成が行われています。オンライン講座やセミナーに参加される各企業の方々の特徴や傾向を教えてください。
jeki東:大手企業の地方事務所の方々から、地域において脱炭素に積極的に取り組みたいけれども、具体的な方法がわからず手探り状態の方まで、参加者は多岐にわたります。総じて、民間の事業者がこの分野に強い関心を持っている様子がうかがえます。
──参加者はそれぞれ具体的な課題や目標をお持ちなのでしょうか? 例えば、再エネの活用に関心がある方々や、脱炭素を推進したいという明確な目標を持つ方々が多いのか、それとも、具体的な方針はまだ定まっていないけれども、環境には貢献したいという漠然とした想いを持っていらっしゃる人が多いのでしょうか。
jeki東:脱炭素に関する取り組みをすでに進めている企業や団体が一定数参加していて、地域の実際の課題に対する洞察を深めるために参加しているケースが多い印象です。自らが持っている技術やソリューションを通じて、地域社会のニーズにどのように対応すべきかについてのリアルな声を求めている人が多いように感じます。
環境省佐々木:オンライン講座の参加者リストを見ると、まず新電力会社や電力関連業者、そしてデベロッパーが省エネや街づくりの視点から参加しているケースが目立ちます。金融機関や通信業界、特にDXを通じて効率化と脱炭素を両立させる取り組みを進めている部門からの参加も多いようです。他では、コンサルティング業界の方も散見されます。私たちのセミナーは主に自治体向けに行われているため、自治体がどのような課題を抱えているかを把握するのと同時に、脱炭素に関する情報収集を兼ねて参加される方も多いようです。また、純粋に企業の省エネやGHG排出量の削減を目指す部門の方も一部見受けられますが、その割合は高くありません。

──地域によっても違いが見られますか?
環境省佐々木:やはり都市部のほうが脱炭素への理解は進んでいると感じます。自社の利益や地域の活性化だけでなく、純粋にGHG排出量の削減と温暖化対策の観点から取り組むケースが都市部には多いようです。
自治体の観点から見ると、人口が多い自治体は職員数が多く、脱炭素に関わる職員も比較的確保しやすいため、取り組みやすい環境が整っていることが参加の理由になっていると思います。一方で、地方の自治体の環境部局は1人や2人程度の職員しか確保できず、他の業務を兼務していることも少なくないため、廃棄物処理や鳥獣害対策など多岐にわたる業務に忙殺されることがあります。規模の小さい自治体では、職員数が足りずに脱炭素に本腰を入れて取り組めないという事情があるので致し方ない面はあるかもしれません。本事業はその課題を解決するためのものでもあります。
──その一方で、地方を訪れるとソーラー発電や風力発電などの設備が整っている光景を目にします。素人目には、土地の広さを活かした様々な取り組みが活発に行われているように見えます。
環境省佐々木:確かに、地方は自然のポテンシャルが大きいです。ただ、地域でメガソーラーなどの太陽光発電所が建設される際、地域住民の雇用や地域経済への貢献がないと、地域社会と軋轢が生じることがあります。地域の側から見たときに、地域にお金が残らず、いたずらに景観が損なわれるだけだったり、土砂災害が発生するリスクが高まるだけだったりすると、地域住民から反対の声が挙がることもしばしばです。
再エネ事業が地域と共存し、地域経済や雇用にプラスの影響を与えるためには、地域の利益を考慮した設計や運営が欠かせません。地域の意思を尊重し、地域に還元する仕組みを整えることが重要です。そのため大都市の企業が地域に進出する際には、利益を地域に還元するなど地域社会と共生することが求められます。一方的に利益を吸い上げてしまうと、都市部への一極集中が進んで従来の二の舞になりかねません。地域と都市が協力し合うことで、地域経済や地域の魅力が向上し、持続可能な社会を築くことができるはずだと考えています。
──お話を伺っていると、利害調整に長けた人材が求められているように感じます。具体的には、誰が受益者で、どのような投資が行なわれ、エネルギーの需要と供給がどのように調整されるか、といった点に関する専門知識や経験を持った人材の育成が急務との印象を受けますね。
環境省佐々木:おっしゃるとおりで、この委託業務はまさにその一端を担うものと考えています。地方の人々は、利益が都市部に流れてしまうことを懸念していて、地域の自立や、対等な立場での対話を重視しています。このため、地方は自ら地域を運営する意識や、対話のスキル、必要な知識を身につけ、体制を整える必要があります。対照的に、都市部の企業は地域との連携や相互支援の意識を持つことが重要です。そもそも地域の活性化に貢献することは、都市部にとってもメリットがあることです。

地域脱炭素実現に必要とされる3タイプの地域中核人材。
地方がイニシアチブを握る脱炭素
──これまでのお話で、脱炭素に取り組みたい人材と、解決策を提供できる人材の双方が必要なことを理解できました。事業者同士や自治体と事業者の間など、異なるステークホルダーを結びつける具体的な取り組みについて教えてください。
jeki東:当委託業務の取り組みの一例として、企業と地方公共団体をつなぐマッチングイベントを開催しています。例えば、「自治体として積極的な脱炭素施策を進めたいと考えているけれども、そのために必要な先進的なテクノロジーを持つ企業が地域内に不足している」という場合には、地域の要望と企業のソリューションのマッチングが必要になりますが、それを促すためのイベントです。
実際のイベントにおいては、自治体と企業の担当者が集まり、イベントの前半では自治体による自地域の課題と企業に求めるソリューション・ニーズに関するプレゼンテーションが行われ企業が持つソリューションについて意見交換を行ない、企業サイドからは「こういうアプローチが可能です」という提案が出されます。このイベントを通じて、地域がイニシアチブを握りながら外部の専門知識を取り入れ、ネットワークを活用して脱炭素施策を推進する機会が提供されると考えています。
──マッチングイベントへの参加以前はコネクションを持っておらず、イベントを機にコネクションが生まれて話が前に進んでいくというイメージでしょうか。
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 江川 勇太(以下、jeki江川):そうです。実際にマッチングイベントを通じて自治体とのコネクションを得た企業が、自治体との協業で脱炭素の事業を進めるというケースも生まれてきています。先日大阪府さんとSTUDIO SPOBYさんが包括連携協定を結んだというプレスリリースが発表されましたが、これもこのマッチングイベントで生まれたコネクションが端緒となりました。まちの脱炭素への意識や行動改革を促すことを目的に、STUDIO SPOBYさんのスマートフォンアプリを活用するという協定です。
これも一例で、マッチングイベントのアンケートからは協業に向けて事前のミーティングを進めているという声もよく届いています。こうした動きがどんどん進んでいく中で、地域の脱炭素も進んでいくはずですし、私たちもマッチングイベントを運営する立場としてその動きに期待しています。

jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 江川 勇太さん
jeki東:佐々木室長におうかがいしたいのですが、自治体のほうから企業に売り込みに行ったり、ソリューションの提供をお願いしたりするケースはあるのでしょうか。
環境省佐々木:あまり聞いたことがないですね。ただ自治体がカーボンニュートラルを宣言すると、企業の営業担当者が多数訪れるようになるそうです。自治体の宣言によってその地域に取り組みの「旗」が立つことになり、企業にとっても明確なターゲットが示されることになりますから営業しやすいのだと思います。
とはいえ、受け入れる側の自治体は、どの企業が自分の地域に適しているか把握することに難しさを感じているようです。訪問する企業数が多いとその対応だけで相当の時間を取られますからね。そのためjekiさんと協力している環境省主催のイベントでは、自治体が解決したい課題をあらかじめ明確に表明し、解決策を持つ企業が参加する形式になっています。
──本委託業務への参画で、jekiはどのようなメリットが得られたのでしょうか?
jeki江川:JR東日本グループの一員として脱炭素に取り組んでいる姿勢がより鮮明になり、社会的な認知度やプレゼンスが向上したことが挙げられると思います。例えば、環境省北海道地方環境事務所との連携協定の一環として、新たにスタートした脱炭素に係る相談窓口サービス「ポラリス(POLARIS)」の事業に参加できたり、他の自治体からも同様の人材育成の取り組みに関わるお問い合わせやご依頼をいただいたりするなど、多くのメリットがもたらされています。
jeki東:確かに、参画を機に事業領域がどんどん拡大していますよね。
── 「経済性」を媒介に、「脱炭素」というテーマに基づいて地域が活性化したり、企業が活性化したりするイメージが、地域脱炭素が目指す未来像になるのでしょうか。
環境省佐々木:そのとおりだと思います。経済的な持続性が確保されなければ取り組みを継続することが難しくなりますから、経済的な視点は非常に重要だと考えます。
jeki東:同感ですね。地域が衰退すれば企業も影響を受けますが、逆もまた然りです。ともに発展していくためのパートナーの関係だと思います。


本委託業務の一環である「地域脱炭素ネットワーキングイベント」が開催された際の様子。
各自治体と企業の担当者がマッチングし、様々な協業が生まれています。
地域が利益を享受する脱炭素スキームの在り方とは?
──初めて脱炭素に取り組む企業や自治体へアドバイスする際、今回の委託業務ではどのようなことを伝えているのでしょうか?
環境省佐々木:私たちが重視しているのは、単に地域で脱炭素化を進めるということではなく、当該地域が脱炭素化によって「利益」を享受することです。脱炭素化は地域の活性化の手段である、という点を特に強調しています。
農村地域などでは、人口減少によるコミュニティ衰退などの課題を抱えています。そのような状況では、脱炭素への対応はどうしても二の次になりがちです。しかし脱炭素化を推進することで地域の経済が活性化し、雇用が増える可能性があること、断熱性の高い住宅が健康や経済的負担に与える影響など、脱炭素化が社会課題や経済課題の解決に役立つことを示すことで、多くの人々が参加しやすくなると考えています。そのため、脱炭素化を進める際には、地域の活性化を促すアプローチが重要だと説明しています。
環境省としては、人材育成や設備導入の補助など様々な施策を行なっていますが、何より重要なのはこの考え方を普及させることだと考えています。地域ごとにどのような取り組みが利益をもたらすか、そしてその取り組みにおいてどのようなポイントを押さえるべきかを伝えていくことが重要だと考えています。
── つまり地域脱炭素の実現には、地域に利益が残るスキームを立てることが重要ということですね。どのようなスキームが必要なのでしょうか?
環境省佐々木:地域の持続可能な発展を促進するためのスキームは、5つのポイントに集約されると思っています。まず1つ目は、地域で雇用を増やすことと、新しい事業を始める際に地元で資本を集めることです。地域の資本が増えれば、その利益も地域の事業者に還元されることになりますし、雇用は直接的な利益につながります。
2つ目は、地域の未利用資源を活用することです。太陽光エネルギーなど再エネはその一例ですが、他にも例えば生ゴミや家畜の糞尿を利用してバイオガスを生み出し、それを発電に活用するなど、これまで価値が見出されていなかった資源を活かします。これによって地域が活性化し、新たな収益源が生まれるはずです。
そして、地域で得た利益を再投資することも重要なポイントです。地域で発電事業を行なったり、売上が地域内に留まったりした場合、その利益を福祉や教育、文化活動など地域の課題解決や活性化に役立てることができます。また、地域事業者の参画も促進することが必要なポイントです。建設業者やハウスメーカーを積極的に関与させ、地域内での建設や省エネ事業を推進することも大切です。
最後のポイントは、地産地消の推進です。地域で生産されたエネルギーや食品を地域内で消費することにより、地域の経済循環が促進されます。これらのポイントを組み合わせたスキームによって、地域の持続可能な発展が実現します。地域の主体性を尊重し、地域住民の参加を促進することで、地域の課題解決や活性化に向けた取り組みがより効果的に進められるのではと考えています。
──いま述べていただいた5つのポイントは、地域の企業だけでなく、自治体の関係者にも必要な意識だと思います。実際、企業を含む地域のステークホルダーがどのような意識を持つべきか、特に脱炭素に向けて重要な点を今回の委託業務から学ぶ必要がありそうですね。
環境省佐々木:基本的には主体性が大事だと思っていますが、ひとくちに「主体性」といっても2つのレベルがあると考えています。まず1つは個人レベルです。脱炭素の取り組みは、自治体の首長や担当者などの個人が起点になることが多いのですが、それだけではうまくいかないこともあります。例えば、担当者が意欲的でもトップが支持しなければ予算が得られない、あるいはトップがやる気満々でも部下の意欲が薄い、といったケースは珍しくありません。要は、主体性を持った個人が活躍できる組織になっているか、という点がまず重要です。

本委託業務の根幹を成す地域循環共生圏の三原則。
──組織のガバナンスの部分ですね。
環境省佐々木:そうです。私たちはそうした側面も見据えながら支援に携わっています。もう1つはパートナーシップです。例えば、自治体庁舎の脱炭素化といった大規模な取り組みにおいては、自治体の努力である程度は実現できるかもしれませんが、自治体が民間企業の使用している電気を再エネに切り替えたり、省エネを進めたりしようと思ったら、これは自治体の力だけでは不可能でパートナーシップによる解決が必要です。つまり、地域脱炭素の取り組みには官民双方の主体性と協働の精神が不可欠なんです。このような基盤が整うことによって、様々な地域の脱炭素の協業が前に進むと考えています。もちろん脱炭素だけでなく、社会課題や経済課題の解決にも取り組むことが重要で、この3つの軸が揃うことで、地域の持続可能性はより高まると思います。
──その主体性やモチベーションは、地域や事業者によって異なるのでしょうか?
jeki東:実際には、地域の特性や自治体の内部の文化などが影響し、企業では経済的な状況や環境的な要因も影響します。モチベーションはこれらの「制約」に左右されやすいのですが、そのような状況を乗り越えてモチベーションを高める方法を明らかにすることも、この委託業務の重要なポイントだと考えています。例えば、本委託業務では、6つの活動団体による研修やワークショップを実施していますが、これらに参加している人の中には、脱炭素を「他人事」だと感じている人もいます。そうした意識を変えるためにも、この研修やワークショップのカリキュラムでは、脱炭素と日々の業務を結びつける方法を考えるように促す工夫がなされています。実際、研修やワークショップの参加者からのフィードバックを見ると、脱炭素に対するモチベーションが高まり、自分の業務に脱炭素を組み込む方法を見つけることができて有意義だった、という声があります。こうした「気づき」を与える場づくりが、人材育成において重要であると改めて認識しました。
──これまでのお話を聞いていると、環境省の取り組みが少しずつ実を結んできているように感じますがいかがでしょうか?
環境省佐々木:きちんと精査できているわけではありませんが、成果は確実に上がっていると実感しています。例えば、活動団体の支援を受けた地域が、脱炭素先行地域に認定されるなど具体的な成果が見られますし、脱炭素に関連する法律に基づく自治体の計画をした事例もあります。こうした事例を見ていると、人材育成事業を通じて参加者のモチベーションを高めたり、知識の共有に努めてきたりした甲斐があったなと嬉しく思っています。これから先、こうした成果がより一層増えていくことを期待しています。

インタビュー:田中誠司
執筆:陶木友治
写真:中村寛史