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物理シミュレーションで支援する製造業のカーボンニュートラル戦略(株式会社IDAJ)
目次
製造業は、カーボンニュートラルという大きな課題に直面しています。そして、多くの企業が「何から始めるべきか」「どのような投資が効果的か」と模索しています。
現在、物理シミュレーション技術が新たな解決策として注目されています。1994年創業の株式会社IDAJは、年間800件以上のシミュレーション実績を武器に、製造業の脱炭素化をサポートしています。
IDAJのシミュレーション技術は、製品開発段階でのCO2削減に貢献するだけでなく、製造プロセス全体の最適化を実現します。製造現場の脱炭素化に伴走する金澤 匠さん(第二モデリング・ソリューション本部 解析技術6部 部長/写真左)にお話を伺いました。
物理シミュレーションの専門家集団 IDAJ
―まずはIDAJについて教えてください。
金澤さん:IDAJは物理シミュレーションを専門とするソフトウェア企業です。創業から約30年、製造業のお客様の課題をシミュレーションで解決してきました。シミュレーションソフトウェアを販売するほか、シミュレーションの受託業務も行なっています。
例えば、製品/部品の強度評価の他に、目に見えない空気の流れや温度変化もシミュレーションできます。実際にものを作らずとも仮想空間で製品性能を評価できるため、製造コストや時間を大幅に削減できます。
―主な取引先は?
金澤さん:現在、300社以上の企業を支援しています。自動車メーカーが最も多く、トヨタやホンダなどの業界大手とも取引があります。また、東京ガスなどのエネルギー系企業、鉄鋼や化学系の材料メーカー、電子機器メーカー、さらに製薬会社や食品会社など、会社規模や業種を問わず、幅広い分野のお客様にご利用いただいています。
―御社の技術はCO2削減やカーボンニュートラルにどのように役立つと考えますか?
金澤さん:当社のシミュレーション技術を活用し、ものづくり企業の製造プロセスにおけるCO2削減やカーボンニュートラル達成を支援しています。
例えば、材料メーカーでは、製造時に排出されるCO2削減を目的とした設備改良をシミュレーションできます。設備改良に多額の投資が必要な場合、コスト面が障壁となり、試行錯誤は困難です。しかしシミュレーション技術を使えば、様々な改良パターンを低コストで検証できるため、導入ハードルを下げられます。
物理シミュレーション×カーボンニュートラルは好相性
―御社がカーボンニュートラルの取り組みに注力し始めたきっかけは?
金澤さん:約3年前、お客様と日常的に対話を重ねる中で、多くのものづくり企業がカーボンニュートラル達成という課題に直面していると実感しました。カーボンニュートラルへの注目が急速に高まったものの、企業としてとるべき具体策がわからず、模索しているケースがとても多いのです。
これを受けて私たちは、「シミュレーション技術でお客様を支援できることはないか」と考えました。まずは各部門の技術と情報を集約し、「カーボンニュートラルに貢献するシミュレーション技術」としてHPで公開しました。
このページでは、エネルギー産業、輸送・製造関連産業など、幅広い業種におけるカーボンニュートラルの取り組み事例や技術情報を発信しています。例えば、各業界でCO2排出削減に向けてシミュレーション技術がどのように活用できるのか、具体的な応用例を紹介しています。
―応用例について教えてください。
金澤さん:近年では発電や製品製造時に排出されるCO2を再度燃料に戻す「メタネーション」と呼ばれる技術が脚光を浴びており,様々な企業で研究開発が進んでいます。
過去に当社が行ったメタネーションのシミュレーション事例では、メタネーション技術の課題である触媒性能や冷却性能を机上で評価し、80%以上のCO2再燃料化が可能だという結果が得られました。こういった検証は実機では非常にコストが高く、シミュレーションの活用によるメリットはかなり大きいと考えています。
―製造業のカーボンニュートラル達成における御社のシミュレーションの強みを教えてください。
金澤さん:当社の最大の強みは、各専門分野での豊富な実績です。200名以上のエンジニアが、様々な業界の課題解決に携わってきました。シミュレーション委託実績は、年間800件、累計1万件以上に上ります。お客様は現場のスペシャリスト、私たちはシミュレーションのスペシャリストとして、カーボンニュートラル達成に向けて互いの強みを活かしながら、二人三脚で臨むことができます。
―物理シミュレーションとカーボンニュートラルの取り組みは好相性だと思いますか?
金澤さん:非常に相性が良いと考えています。現在、製造業のお客様の多くは、自社の製品開発と同時進行で、製造プロセスでのCO2削減も求められています。当社は両方の視点を取り入れた、最適なソリューションを提案できます。これにより、製品のライフサイクル全体でのCO2削減効果を可視化することができるのです。
また、製造プロセスにおける柔軟なシミュレーションモデルとして、「動く仕様書」も有効だと考えています。
動く仕様書でCO2排出削減のための設備間連携を可視化
―動く仕様書とはなんですか?
金澤さん:従来の固定化された仕様書とは異なり、各設備や工程の数値を変更したときに全体がどう変化するかを予想できるシミュレーションモデルです。
製造現場では複数の設備が連動し、それぞれがCO2を排出しています。しかしカーボンニュートラル達成には、設備全体の最適化が必要です。動く仕様書では、各設備のCO2排出量や処理能力などをモデル化し、一つの設備を変更した場合に全体の排出量がどう変化するかをシミュレーションできます。
そうすることで「この設備のCO2排出量を◎%に抑えれば、工場全体でカーボンニュートラルが達成できる」という具体的な目標設定が可能になります。これに加え、設備投資の優先順位づけや、コスト効率の高いCO2削減策の検討にも活用できます。
―動く仕様書は、CO2を含む温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを取る上でも有効な手立てですね。
金澤さん:そうですね。シミュレーションを通して製造プロセス全体の排出/吸収量のバランスを正しく把握しながら各設備の仕様を決めていけるため、カーボンニュートラル達成に向けて理想的な設備構成を計画できます。
―具体的なユースケースはありますか?
金澤さん:現時点では研究開発段階のお客様が多く、実設備の導入事例はまだ少ない状況です。これは設備システムの研究開発から実運用に至るまで、5-10年間に及ぶ基礎検証期間が必要なためです。ただし、今後の実設備の運用に向けて現段階からシミュレーションの技術を構築することは最終的なコスト削減に向けて非常に重要だと考えます。
実際のところお客様からのお問い合わせは、日に日に増加しています。特に設備系のお客様からは「できるだけエネルギーを無駄にしない製造技術」についての相談が増えています。環境省が「2030年目標」を定めたこともあり、今後さらに加速するのではないでしょうか。
デジタルツインを実現し、ものづくりの現場に役立つ技術を提供したい
―これからカーボンニュートラルの取り組みに有効だと思われる新技術はありますか?
金澤さん:デジタルツインですね。これは「現実のものと仮想空間上のものをリアルタイムに同期する」という概念です。しかし、実際の環境を仮想空間で完全に再現するには、技術的なハードルが高いのが現状です。多くの企業はAIを活用して過去データから必要な情報だけを抽出する方式で運用していますが、私たちはもう一歩先を目指しています。実際のものが見える、流れが見える、温度変化が見えるレベルで、リアルタイムに仮想空間で再現することが目標です。
―デジタルツインが実現するとカーボンニュートラルにどう貢献できますか?
金澤さん:仮想空間の情報をもとに、設備のCO2排出状況をリアルタイムで把握できます。これをもとに、「この設備のCO2排出量が多いから、この部分を調整しよう」といった検討や判断がスピーディに行えます。予測もできるため、カーボンニュートラル達成に向けて先手を打ったり、対策を見直したりすることも可能です。
さらに、設備投資費の削減も見込めます。デジタルツインが実用化されれば、現在各設備に設置されている様々なセンサーや測定器の一部は、仮想空間のシミュレーションで代替できるようになります。そのため余分な設備投資費がかかりません。
―今後のビジョンについて教えてください。
金澤さん:私たちは、カーボンニュートラルのような世界的な重要課題に対して、お客様と肩を並べて取り組んでいきたいと考えています。そのためにはシミュレーション技術やデジタルツインのような最先端技術を積極的に提供したいですね。
また、製造業の現場知識を持ったエンジニアの採用も積極的に進めたいです。お客様の製造現場をより深く理解できる体制を強化し、技術を磨くことで、カーボンニュートラルに貢献したいですね。
(了)
取材・文/佐藤 優奈