ゼロ炭素ポート

「見えない熱の無駄」を可視化。アルファ・ラバルの脱炭素投資を促進させる取り組みに迫る

作成者: 佐藤優奈|2025年07月22日

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、各業界団体や企業各社がその道筋を模索しています。アルファ・ラバル株式会社の「EnergyHunter活動」は、脱炭素化の一翼を担う取り組みです。このプロジェクトは、工場や製造プロセスで「捨てられている熱」を発見し、廃熱回収につなげることを目的としています。また、省エネ効果とCO2削減量を数値化できる算定ツール「Value Calculator」で投資対効果を可視化。企業の脱炭素化に向けた設備投資の後押しをしています。

電力・鉄鋼・化学業界など、エネルギー多消費産業の持続可能な成長をサポートするこれらの取り組みについて、酒井 雅史さん(エネルギー事業本部 事業開発担当部長)にお話を伺いました。

熱交換・分離・流体移送で顧客のプロセス効率化を図る産業機械メーカー

まずは御社について教えてください。

酒井さん:アルファ・ラバルは1883年創業の産業機械メーカーです。スウェーデンに本社を置き、現在は世界100カ国以上に販売拠点があり、日本での市場展開は今年でちょうど100年を迎えます。主力製品は、「プレート式熱交換器」に代表される熱交換器と、高速ディスク型遠心分離機です。当社は、「熱交換・分離・流体移送という3つのコアテクノロジーを用いて、お客様のプロセスを最大限効率化すること」をミッションに、産業機械の設計から販売まで広く展開しています。

事業内容について詳しく教えてください。

酒井さん:当社の事業は大きく分けて3つです。まずは「フード&ウォーター事業本部が担う食品関連事業」、「マリン事業本部が担う船舶関連事業」、そして私が所属する「エネルギー事業本部」です。事業割合はほぼ1/3ずつですが、昨今はエネルギー領域のニーズが増加しています。

エネルギー事業本部は何をする部署ですか?

酒井さん:食品でも船舶でもない、いわば「その他エネルギー関連全般」を担う部署です。石油や化学プラントのような大規模工業施設から、電力会社、そして公共施設や病院                 の空調・給湯などの生活インフラ関連、電気機器や家電メーカーなど幅広い分野のお客様に、熱を効率的に利用するためのソリューションをお届けしています。

当社ではかねてから高効率な熱交換器をお客様にお届けしてきました。特に近年は脱炭素社会の実現に向けて、省エネや廃熱回収の需要が高まっており、これを受けて、「Energy Hunter活動」をスタートしました。

無駄の発掘につなげる「EnergyHunter活動」

EnergyHunter活動とはなんですか?

酒井さん:アルファ・ラバルの「EnergyHunter活動」とは、熱交換器や遠心分離機等を利用しているお客様の製造工場や製造プロセスにおける「無駄なエネルギー」を見つけ出し、効率化を図る取り組みです。私たちエネルギー事業本部が主導となり、グローバルで展開しています。EnergyHunter活動では、脱炭素に貢献するソリューションとして、「クリーンエネルギー」「サーキュラーエコノミー」「エネルギーの効率化」、そして「衛生的な水の確保」を4つを軸に、各国でそれぞれに専任者を置いて推進しています。

取り組みをはじめたきっかけは?

酒井さん:近年では、脱炭素社会に向けた取り組みを加速させたいお客様も増えてきました。これに応えるべく、2023年後半からプロジェクトの構想を固め、24年にサービスを開始しました。

私たちはこの取り組みを通して、お客様が見落としているエネルギーの無駄を発見し、省エネとCO2削減を実現できる具体的なソリューションを提案しています。

具体的な活動内容について教えてください。

酒井さん:日本では特に「エネルギーの効率化」に軸足を置いて活動しています。今回は、熱交換器にフォーカスしてご説明します。私たちは、工場内の既存設備を高効率な熱交換器にアップグレードしたり、適切なメンテナンスを施したりすることにより、熱の最適化を図りたいと考えています。その第一歩として、お客様にエネルギーの無駄に気づいてもらうための地道な活動をしています。

まずは、お客様への啓蒙活動です。企業のサステナビリティ部門や脱炭素推進部門などに焦点を当て、エネルギーハンティングの考え方を広めています。

2つ目は、地域別セミナーの開催です。廃熱回収をテーマに、コンビナート各社に向けた小規模な技術セミナーを実施しました。24年度には国内2箇所で実施し、約50社が参加しました。25年度も東西エリアで各1回ずつ、セミナーを開催予定です。

最後は、既存のお客様の個別訪問と効率診断です。高効率熱交換器であっても、メンテナンスを怠れば、ガスや冷却水の過剰消費を招きます。コストやエネルギー面でロスが生じないよう、定期的にお客様の工場を訪問し、メンテナンスの必要性や廃熱回収のお悩みを伺っています。その際に入手した設備機器の運転データをもとにシミュレーションを行い、電気代や水道代、CO2排出量を数値化してお伝えします。この診断を通じて、お客様自身が気づいていなかった無駄を掘り起こし、改善提案につなげています。

私たちのこのような活動において欠かせないのが、当社の「Value Calculator(VC)」です。

投資対効果の可視化ツール『Value Calculator』で企業の設備投資を後押し

酒井さん:VCとは、廃熱回収の投資効果が可視化できる算定ツールです。2023年にプロト版が開発され、24年に正式リリースしました。現在、当社HPでも公開しています。

―VCで何がわかりますか?

酒井さん:お客様がVCに「熱回収元のプロセス条件」「熱の利用方法」「設備投資額」などの特定項目を入力すると、年間CO2削減量、電気代削減額、水使用量削減、設備投資の回収期間などが試算され、グラフでわかりやすく表示されます。具体的な期間や金額が見える化するため、これまで生じていたエネルギーの無駄に気づく機会になります。

VCの計算式は、当社の高効率熱交換器の導入を前提としたものです。その効果について例を挙げて説明すると、芳香族プラントの蒸留塔にシェル&チューブ式の熱回収予熱器を使用していたお客様が、当社の高効率熱交換器「コンパブロック」に変えた場合、CO2 年間排出量が2,323t削減されます。節約金額は年間約1億円に上ります。設備導入には初期投資が必要なため最初はもちろん赤字ですが、徐々に黒字に推移します。

その他にどのようなメリットがありますか?

酒井さん:社内稟議や提案用資料としても有効活用できます。お客様が設備投資の判断をする際、まずは現場担当者が提案書を作成し、決裁者提案しなければなりません。日常業務をこなしながら各種数字をまとめ、作り慣れていない資料に落とし込むのは一苦労です。しかし、VCには提案書に盛り込むべき項目がほとんど網羅されており、社内稟議のスタートポイントとなる資料を簡単に作成できます。将来的な回収金額や期間が明確に示されているため、組織としてのスムーズな意思決定にもつながります。

現在どのようなお客様に利用されていますか?

酒井さん:製造・生産プロセスにおいて蒸気を大量に排出する会社や、燃料消費の多い会社、CO2排出量が多い会社には、私たちから積極的にアプローチしています。例えば電力や鉄鋼、化学、製紙業などの産業分野が中心です。これらの業界は製造・生産プロセスでエネルギーを大量に消費するため、廃熱回収で得られる省エネ効果も大きい傾向にあります。

中にはVCを通じた改善提案に基づき、実際に検討が始まっている企業様も複数います。

エネルギー最適化でサステナブルな社会の実現を牽引する

脱炭素化の実現に向けて、VCを活用したいお客様の増加が予想されますね。

酒井さん:そうですね。VCは、お客様の声を取り入れながら、どんどん進化しています。例えば、国内最大手のガラスメーカー様の事例では、苛性ソーダの濃縮工程において、当社の蒸発缶とガスケットプレート式熱交換器を導入した結果、蒸気使用量を約10%削減することに成功しました。このようなお客様のニーズを受けて、VCに苛性ソーダのシステムを追加しました。これからもアップデートを重ね、お客様に役立てていただきたいです。

最後に、今後の展望について教えてください。

酒井さん:当社は2024年に新たなブランドメッセージ「Pioneering Positive Impact (ポジディブな影響を先駆けて創り出す)」を発表しました。この理念に基づき、お客様の熱利用の最適化を実現するとともに、サステナブルな社会の実現をリードしていきたいと考えています。

日本の工場設備には、高度経済成長期に作られた旧設備の入れ替えや最適化など、まだまだ効率化の余地があります。EnergyHunter活動を通じて、産業界の脱炭素化をサポートしていきたいです。

(了)

取材・文/佐藤優奈