GHGプロトコルと温対法の6つの違い|対応のポイントや準拠するメリットも紹介

目次

地球温暖化対策への取り組みが本格化した1990年代後半、GHGプロトコルが設立されました。日本には、「地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「温対法」という。)」がありますが、GHGプロトコルとの違いがよく分からない人もいるでしょう。本記事では、GHGプロトコルと温対法の違いを詳細に解説します。ぜひ参考にしてください。

温室効果ガスの世界基準であるGHGプロトコル

GHGプロトコルは、温室効果ガスの算定や報告を定めた世界基準として、1998年に設立されました。GHGは「Greenhouse Gas」の略語で、温室効果ガスを意味しており、プロトコルには規則や規格などの意味があります。

算定・報告は義務ではなく、温室効果ガスの排出量計算ツールの利用も任意ですが、多くの企業がGHGプロトコルに準拠した取り組みを導入しています。

※参考:温室効果ガス(GHG)プロトコル|環境省

GHGプロトコルで重視されるサプライチェーン排出量

サプライチェーン排出量は、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量を指します。企業の事業活動に関連する温室効果ガスの排出は、調達から廃棄に至るまでのサプライチェーン全体で発生します。つまり、自社で直接・間接的に排出された温室効果ガスのみに着目しているようでは、温室効果ガス削減に向けた効果的な取り組みを計画できません。

そのため、GHGプロトコルでは、サプライチェーン全体での排出量の把握と適切な管理を要請しています。

GHGプロトコルが定める排出量算定・報告の原則

GHGプロトコルが定める排出量算定・報告の原則は、以下の5つです。

・妥当性
・完全性
・一貫性
・透明性
・正確性

上記原則に従って算定・報告を行うことで、温室効果ガス排出量に関するデータの信頼性が確保され、ステークホルダーへの説明責任を果たせます。

※参考:温室効果ガス(GHG)プロトコル|環境省

日本国内のルールである温対法

日本では温対法が1998年に制定され、温室効果ガスの排出量について国への報告が義務付けられました。温対法では、年間のエネルギー使用量が一定基準を超える事業者を「特定排出者」と定め、温室効果ガス排出量の報告を求めています。

報告制度は、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(以下「SHK制度」という。)」として具体化され、温対法の下で運用されています。

※参考:地球温暖化対策の推進に関する法律|e-Gov 法令検索
※参考:SHK制度の概要|林野庁

GHGプロトコルと温対法の6つの違い

両者の目的は温室効果ガス削減ですが、対象事業者などに相違が見られます。ここでは、GHGプロトコルと温対法の6つの違いを解説します。

※参考:温室効果ガス(GHG)プロトコル|環境省
※参考:地球温暖化対策の推進に関する法律|e-Gov 法令検索

1.設定者と対象事業者

GHGプロトコルは、世界環境経済人協議会(WBCSD)と、世界資源研究所(WRI)が共同で設立しました。GHGプロトコルは、全世界を対象としています。一方、温対法は日本の法律で、対象者は一定以上のエネルギーを使用する特定排出者です。

2.排出量の算定・報告の範囲

GHGプロトコルは、海外も含むサプライチェーン全体における、温室効果ガス排出量を算定・報告するための世界基準を提供しています。一方、温対法では、国内の特定排出者のみが算定・報告の義務を負います。

3.排出量の区分方法

GHGプロトコルでは、温室効果ガスの排出源をScopeという区分で分類し、サプライチェーン全体の排出量を算定します。詳細は後述しますが、GHGプロトコルが定義するScopeは、全部で3つです。温対法ではScopeによる区分けはなく、事業者の直接排出と、電気や熱、蒸気などの使用による間接排出を算定・報告の対象としています。

4.算定手法

GHGプロトコルでは、事業活動に伴う燃料使用量などの活動量に、単位当たりの温室効果ガス排出量を示す排出係数を掛け合わせて、排出量を算定します。特にScope3については、後述する15のカテゴリー別に詳細な算定手法が提供されています。

温対法の算出手法も、活動量と排出係数を掛け合わせるという点では、GHGプロトコルと同じです。ただし、排出係数には日本独自のものが採用されています。

5.報告・開示要件

GHGプロトコルは、温室効果ガスの算定・報告の世界基準を提供しており、採用自体は企業の自主的な判断に委ねられています。一方、温対法では、一定以上のエネルギーを使用する特定排出者に対して、報告を義務付けています。

6.証書・クレジットの扱い

証書・クレジットの扱いは、両者で異なります。温室効果ガス排出量の報告において、GHGプロトコルでは、証書やクレジットによる削減効果を別枠で表示するよう求めています。一方、温対法では、証書やクレジットによる削減効果を反映した、最終的な排出量での報告が可能です。

GHGプロトコルと温対法の違いを理解して対応するポイント

GHGプロトコルと温対法に適切に対応するために、以下で解説する両者に共通する部分を押さえた上で、運営体制を整えましょう。

共通する部分を押さえる

GHGプロトコルと温対法は、測定対象となる温室効果ガスが同じです。測定対象の温室効果ガスは以下のとおりです。

・二酸化炭素(CO2)
・メタン(CH4)
・一酸化二窒素(N2O)
・ハイドロフルオロカーボン類(HFC)
・パーフルオロカーボン類(PFC)
・六ふっ化硫黄(SF6)
・三ふっ化窒素(NF3)

また、排出量の算定手法についても、活動量に排出係数を掛け合わせるという基本的な考え方は同じです。

運営体制を整える

GHGプロトコルと温対法では、それぞれの要件に応じた運営体制の構築が求められます。GHGプロトコルでは、Scope3の算定に対応できる専門人材の確保と、グローバルなサプライチェーンにおけるデータ収集の仕組みづくりが重要です。

温対法の範囲は国内に限定されますが、確実なデータ収集の管理体制と、電子システムを活用した算定・報告の環境整備が必要となります。

GHGプロトコルにおける3つのScope

Scopeの概要を把握し、サプライチェーン全体の状況を正しく認識しましょう。ここでは、GHGプロトコルの3つのScopeについて解説します。

※参考:サプライチェーン排出量全般|環境省

Scope1:自社からの直接排出量

Scope1は、企業や組織が所有・管理する設備から、直接排出される温室効果ガスを指します。例えば、自社の生産設備でのガス使用や、化石燃料の使用などによって発生する排出量が該当します。

Scope2:自社からの間接排出量

Scope2は、事業活動に必要な電気・熱・蒸気の使用に伴い排出される、温室効果ガスを指します。使用したエネルギーは、他社から供給されたものです。そのため、エネルギーを使用する企業や組織の視点からは間接的な排出となります。

Scope3:Scope1とScope2を除くサプライチェーンからの排出量

自社以外で排出される温室効果ガスが、以下の15のカテゴリーに分類されるScope3です。

・購入した製品・サービス
・資本財
・Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動
・輸送、配送(上流)
・事業から出る廃棄物
・出張
・雇用者の通勤
・リース資産(上流)
・輸送、配送(下流)
・販売した製品の加工
・販売した製品の使用
・販売した製品の廃棄
・リース資産(下流)
・フランチャイズ
・投資

※引用:サプライチェーン排出量の算定方法 基本的な算定手順|環境省

GHGプロトコルに準拠するメリット

以下では、企業がGHGプロトコルに準拠するメリットを、算定と報告に分けて解説します。

算定に関するメリット

GHGプロトコルに基づいて温室効果ガスの排出量を算定すると、サプライチェーン全体の排出状況をトータルで把握できます。自社の直接的な活動だけではなく、原材料調達から製品の廃棄に至るまでの各段階において、削減が必要となるポイントを特定可能です。

また、取引先から温室効果ガス排出量削減の要請を受けた際にも、改善すべきポイントを把握していれば、迅速な対応が可能となります。適切な施策を講じると、環境にも大いに貢献できるでしょう。

報告に関するメリット

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮するESG投資において、GHGプロトコルに準拠した排出量の算定・報告は、重要な意味を持ちます。環境に配慮する姿勢を定量的に提示できる結果、投資家からの評価向上につながるためです。

また、取引先に対して自社の環境への取り組みを具体的にアピールできると、ビジネス上の差別化につながります。国際的なイニシアチブへの参加を検討する際の基盤としても、GHGプロトコルは役立ちます。

GHGプロトコルでサプライチェーン排出量を算定するステップ

以下では、GHGプロトコルに準拠して、サプライチェーン排出量を算定するステップを解説します。

目標を決める

温室効果ガス排出量を算定・報告する目的を明確にします。ステークホルダーへの情報開示、環境戦略の策定、サプライチェーン全体を範囲としたリスク管理など、具体的な目標設定により効果的な取り組みが可能となります。

算定する対象や範囲を決める

温室効果ガスが排出される活動を特定し、測定対象とするガスの種類、測定する期間、サプライチェーンの範囲などを設定します。ミスなくデータを収集して正確な算定を行うには、慎重な検討が必要です。

データを測定・収集する

各活動について、直接測定または間接測定により活動量のデータを収集します。直接測定は燃料使用量や電力使用量などの実測値を用いる手法で、より正確なデータが得られます。間接測定は、推定値を使って活動量を求める手法です。特にScope3については、サプライチェーン全体の関係者と連携し、必要なデータを幅広く収集してください。

算定して報告書をまとめる

収集したデータを基に、活動量と排出原単位を掛け合わせて排出量を算定し、報告書としてまとめます。信頼性向上のため、必要に応じて第三者機関による検証も検討してください。

GHGプロトコルに準拠する際の注意点

GHGプロトコルに準拠して温室効果ガス排出量を算定しようとすると、サプライチェーン全体からのデータ収集が必要になります。データ収集には多大な労力と時間を要するため、関係者と協力体制を築いて対応しましょう。

また、収集したデータの正確性や、算定結果の信頼性が懸念される場合もあります。算定結果の信頼性を高めるには、専門機関による第三者検証の活用や、温室効果ガスの排出量計算ツールの導入などが望まれます。

GHGプロトコルの算定・報告事例

ここでは、GHGプロトコルの算定・報告事例として、ANAホールディングスと大和ハウス工業株式会社の事例を解説します。

ANAホールディングス

ANAホールディングスが報告した2023年度のデータによると、温室効果ガス排出量全体の約8割をScope1が占めていました。排出された温室効果ガスの大部分が航空機のジェット燃料であり、技術革新による排出量の削減が検討されています。

※参考:ANAホールディングス株式会社|環境省

大和ハウス工業株式会社

大和ハウス工業株式会社が報告した2023年度のデータによると、温室効果ガスのほとんどがScope3に該当していました。同社は「サプライチェーン サステナビリティ ガイドライン」を定め、サプライヤーと協力して、温室効果ガスの削減に取り組んでいます。

※参考:大和ハウス工業株式会社|環境省

まとめ

GHGプロトコルと温対法は、いずれも温室効果ガスの排出量の把握と削減を目指しています。ただし、両者は設定者と対象事業者、排出量の算定・報告の範囲などに違いがあります。それぞれの共通点と相違点を理解したうえで、要件に準拠した対応を進めましょう。

ゼロ炭素ポートは、自社のサービスだけではなく他社のソリューションも含めて、お客さまの脱炭素への取り組みを総合的にサポートするサイトです。GHGプロトコルに準拠した算定・報告をお考えの人は、ぜひゼロ炭素ポートをご活用ください。

執筆者プロフィール

会社名:東京瓦斯株式会社
部署名:ソリューション事業創造部
執筆者名:大塚勝臣(おおつかかつおみ)
執筆者の略歴(職務経歴、保有資格、受賞歴など):
1992 年入社以来、様々な形で省エネ・脱炭素ソリューションの導入に関わる。
一級建築士
一級管工事施工管理技士
MBA