ゼロ炭素ポート

GHGプロトコルにおけるカーボンクレジットの取り扱いや算定方法を解説

作成者: 大塚勝臣(おおつかかつおみ)|2025年03月21日

企業が脱炭素経営を推進するには、GHGプロトコルの導入が効果的です。GHGプロトコルにおいて、カーボンクレジットがどのように取り扱われるか気になっている担当者も多いでしょう。この記事では、GHGプロトコルの概要に触れたうえで、導入するメリットや課題とともにカーボンクレジットの取り扱いについて解説します。ぜひ参考にしてください。

GHGプロトコルとは

GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)とは、GHGの排出量を計算して報告する際に用いられる国際的な基準です。WRI(世界資源研究所)とWBCSD(世界経済フォーラム)により、開発されました。

GHGとは、温室効果ガスのことです。GHGプロトコルは、企業の事業活動により発生するGHGの排出量を明らかにし、持続可能な経営を実現する目的で使用します。そのため、サプライチェーン全体が算定の対象となっています。

GHGプロトコルの目的・必要性

GHGプロトコルは、GHGの排出量に関する明確な基準であり、企業が算定や報告を正確に行うために役立ちます。多くの企業がGHGプロトコルを導入すると、世界規模で地球温暖化対策に貢献できます。

近年、気候変動の問題が深刻化しており、それぞれの企業が果たすべき責任も大きくなってきました。このような状況だからこそ、GHGプロトコルを活用して積極的に脱炭素経営を進める必要があります。

GHGプロトコルのサプライチェーン排出量の区分

GHGプロトコルのサプライチェーン排出量には、Scope1〜3の区分があります。以下で、それぞれについて解説します。

Scope1

Scope1は、企業が直接排出したGHGの量です。例えば、自社で化石燃料を燃焼したり、セメントを製造したりして排出したGHGが含まれます。Scope1の排出量を算定する場合、まずは自社での排出活動を抽出して、具体的にどのような活動で発生したか内訳を確認する必要があります。

Scope2

Scope2は、他社から供給された電気、熱、蒸気などを使用して発生した、間接的なGHGの量です。自社で排出量を直接算定できないため、供給を受けた他社からの情報提供によりGHGの排出量を算定します。可能な限り正確な数値を算定できるよう、国は各電気事業者の排出係数を公開しています。

Scope3

Scope3は、Scope1とScope2に該当しない間接的なGHGの量です。15のカテゴリが設けられており、該当する項目を確認する必要があります。Scope3に含まれるカテゴリを具体的にあげると、以下のとおりです。

・購入した製品やサービス
・資本財
・Scope1・Scope2以外の燃料やエネルギー活動
・運輸・配送(上流)
・運輸・配送(下流)
・事業で発生する廃棄物
・出張
・従業員の通勤
・リース資産(上流)
・リース資産(下流)
・販売した製品の加工
・販売した製品の使用
・販売した製品の廃棄
・フランチャイズ
・投資

※参考:サプライチェーン排出量算定の考え方 | 環境省
温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 |  環境省

企業がGHGプロトコルを導入するメリット

企業がGHGプロトコルを導入すれば、さまざまなメリットを得られます。ここでは、具体的にどのようなメリットがあるか解説します。

GHG排出量を可視化できる

GHGプロトコルを活用すると、企業は自社の事業活動で生じるGHGの排出量を正確に可視化できます。どの分野でGHGを特に多く排出しているか確認でき、GHGの排出量の削減に向けた具体的な施策を立てるために役立ちます。

サプライチェーンでつながる他社にも正確な情報を提示しやすくなり、効果的な施策を実現するために情報交換する際もスムーズなやり取りが可能です。

企業価値の向上につながる

GHGプロトコルを基準にすれば、GHGの排出量の削減について透明性の高い取り組みを実現しやすくなります。一貫性があると評価され、投資家や消費者からの信頼も増す可能性が高いです。

継続的な取り組みを通して環境に配慮している企業というイメージが定着すると、企業価値の向上につながります。その結果、ビジネスチャンスの拡大や業績アップなどの経済的なメリットも期待できます。

国際イニシアティブの目標設定などで活用できる

GHGプロトコルで区分されているScope1〜3の各データは、複数の国際イニシアティブの目標設定や情報開示に活用できます。

例えば、「科学的根拠に基づく目標(SBT(Science Based Targets))」「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP(Carbon Disclosure Project))」「再生可能エネルギー100%(RE100(Renewable Energy 100%))」などがあげられます。

企業がGHGプロトコルを導入するデメリット・課題

GHGプロトコルの導入には、デメリットや課題もあります。以下で、詳しく解説します。

導入コストが発生する

GHGプロトコルに基づいてGHGの排出量を算定するには、導入コストが多くかかります。測定機器を導入したり、専用のシステムを構築したりする必要があるためです。また自社のGHGの排出量を公表する際はルールに従う必要があり、負担となります。

ただし、GHGの排出量の正確な把握により効率を見直せるため、長期的にみるとコスト削減につながる可能性があります。

継続的な取り組みが必要になる

GHGプロトコルを活用して脱炭素経営を目指すには、継続的な取り組みが不可欠です。GHGの排出量を一度算定するだけでなく、定期的に算定する必要があります。また、算定した数値をもとにし、自社のGHGの排出量を管理することが重要です。そのためには、GHGプロトコルの運用体制を自社で整備しなければなりません。

GHGプロトコルの算定方法

ここでは、GHGプロトコルを算定する方法について詳しく解説します。

1.算定目的・対象を決定する

GHGプロトコルに基づいてGHGの排出量を算定する場合、最初に目的や対象を明らかにする必要があります。目的としては、例えば「サプライチェーン全体におけるGHGの排出量の把握」や「関係者に対する情報開示」などがあげられます。算定の対象は目的に応じて決定することが大切です。

2.GHGの種類を分類する

自社が排出しているGHGについて、GHGプロトコルで定められている区分に分類します。すでに触れたとおり、Scope1は自社が直接排出したGHG、Scope2は他社からの供給により排出した間接的なGHG、Scope3はそれら以外のGHGです。Scope3には15のカテゴリがあるため、細かく分類する必要があります。

3.GHG排出量を計算する

GHGの排出量を計算するには、算定目的をもとに方針を決めたうえで必要なデータを集めます。収集したデータをもとに、GHGの排出量を算出しましょう。サプライチェーン排出量の計算式は「Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量」です。Scope3は15カテゴリごとに基本式があるため、それぞれ計算する必要があります。

※参考:サプライチェーン排出量算定の考え方 | 環境省

GHGプロトコルの算定原則

GHGプロトコルには、「妥当性」「完全性」「一貫性」「透明性」「正確性」の算定原則が設けられています。これらに基づき、事業活動によるGHGの排出を適切に反映した境界条件を定める必要があります。

GHGの排出量を、年ごとに比較できるようにすることも重要です。また、報告する際はすべての関連事項に触れ、算定の根拠や前提条件を示したうえで事実を述べなければなりません。

GHGプロトコルにおけるカーボンクレジットの取り扱い

GHGプロトコルにおいては、カーボンクレジットはどのように扱われるのでしょうか。ここでは、GHGプロトコルにおけるカーボンクレジットの取り扱いについて詳しく解説します。

カーボンクレジットとは

カーボンクレジットとは、GHGの排出削減量を企業同士で売買できる仕組みです。炭素クレジットとよばれる場合もあります。

また、カーボンオフセットは、事業の性質により努力してもGHGの排出量をゼロにできない場合、GHGの排出削減の取り組みに投資して自社の排出量と相殺する考え方です。カーボンクレジットの購入はGHGの排出削減の取り組みに対する投資であり、カーボンオフセットに該当します。

GHGプロトコルではカーボンクレジットを使用できない

GHGプロトコルに基づいて企業がGHG排出量を算定する際、カーボンクレジットは使用できません。ただし、再エネ電力証書(再生可能エネルギー電力証書)による調整は認められています。再エネ電力証書とは、再生エネルギーによって生み出された電力の環境価値を示す証書です。再エネ電力証書の内容は、GHGプロトコルのScope2に該当します。

なお、再エネ由来J-クレジットは再エネ電力証書との二面性があり、Scope2で使用可能です。

※参考:国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関するガイダンス | 経済産業省 環境省

GHGプロトコルに関するQ&A

ここでは、GHGプロトコルに関してよくある質問とそれに対する回答について解説します。

GHGプロトコルとSHK制度との違いは?

SHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)とは、国に対するGHGの排出量の報告を義務づけている制度です。「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」を根拠とし、GHGの排出量の報告を義務づけています。企業の自主的な取り組みを促進し、国内全体のGHG削減に対する気運を高める目的があります。

国際的な基準であるGHGプロトコルに対し、SHK制度は日本の制度です。

GHGプロトコルとSBTとの違いは?

SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定で確認された科学的根拠に基づく温室効果ガスの削減目標です。産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える目標を掲げており、参加企業は目標を達成するための具体的な取り組みを行う必要があります。SBTの取り組みに関してGHGの排出量の算定や報告をする場合、GHGプロトコルのScopeの活用が求められています。

GHGプロトコルとSDGsの関係性は?

GHGプロトコルとSDGsは、いずれも持続可能な社会の実現のために定められています。

例えば、SDGsの7番目には、クリーンなエネルギーが行き届くようにする目標が掲げられました。12番目では企業の活動の責任について触れられており、GHGの把握や削減が重要視されています。また、13番目では気候変動に対する対策が求められており、GHGの削減は特に重要な対策として位置付けられています。

まとめ

GHGプロトコルは、企業が脱炭素経営に取り組むうえで重要な基準です。GHGプロトコルに基づいてGHG排出量を可視化すれば、より効果的な施策を打ち出しやすくなります。また、企業価値の向上も期待できます。GHGプロトコルの算定においてカーボンクレジットは使用できないものの、再エネ電力証書による調整は可能です。

ゼロ炭素ポートは、企業の脱炭素経営の実現に向けた効果的な取り組みを多数紹介しています。自社だけでなく他社のソリューションとも協力し、幅広いケースに対応可能です。自社の状況に応じて最適な方法を実現するために、ぜひ役立ててください。

執筆者プロフィール

会社名:東京瓦斯株式会社
部署名:ソリューション事業創造部
執筆者名:大塚勝臣(おおつかかつおみ)
執筆者の略歴(職務経歴、保有資格、受賞歴など):
1992 年入社以来、様々な形で省エネ・脱炭素ソリューションの導入に関わる。
一級建築士
一級管工事施工管理技士
MBA