温室効果ガスの排出量・吸収量を均衡させて排出をゼロにする「カーボンニュートラル」の取り組みにおいて、コンクリート・セメントの製造・運用は深い関わりがあります。CO2排出量削減や、CO2吸収などにつながるコンクリート・セメント技術・製品は、カーボンニュートラルを目指すうえで高い効果が見込めるでしょう。
本記事では、カーボンニュートラルとコンクリート・セメントとの関係や、実際の技術・事例を解説します
コンクリート・セメントと、温室効果ガスの排出差し引きゼロを目指すカーボンニュートラルとには、深い関連があります。
コンクリートの原料の1つであるセメントを作る際、製造工程にて大量のCO2が排出されます。一般社団法人セメント協会によると、セメント産業における2023年度のCO2総排出量は約3,300トンです。そのうち約6割がプロセス由来の排出となっています。
2024年には、パリ協定で目指していた「温度上昇を産業革命時から1.5度に抑える」を今後5年以内に超える可能性が高いとの見解が出ました。セメント製造におけるCO2排出量の抑制は、カーボンニュートラルを目指すうえで重要になると言えるでしょう。
日本の住宅・建設業においては、CO2の排出量が全体の約3割を占めています。例えば、住宅や建築物の利用によるCO2排出量を表す部門を見ると、「業務その他部門」が全体の19%、「家庭部門」が全体の16%と約35%を占めています。
出典:環境省|2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について
建設業の自社排出(施工)が要因の排出量は比較的少ない一方、建設資材製造、2次加工、輸送、業務用および家庭用建物運用時の排出量が多くなっています。また、製造業という括りで見ると、「コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」では、CO2排出量は全体の35%となっています。
住宅・建設関係や製造業、製造業ではコンクリート・セメントが大きく関わっており、低炭素建設材料・コンクリートの使用、最新の建設機械の導入、ZEB・ZEH関連技術の活用などが、CO2削減のうえでは重要です。
参考:経済産業省|コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について
経済産業省製造産業局資源エネルギー庁は、「セメントとコンクリートは一体として対策を講じるのが有効」との見解を示しています。一方で、コンクリート・セメントは世界中で社会インフラを支えている事実があり、生産活動が抑制されるのは問題があります。
今後のコンクリート・セメント製造・運用とCO2排出のバランスを取るには、「コンクリート等がCO2を排出しない新技術」「CO2を排出しない新製品」の存在が重要です。同時に、新技術・新製品を受け入れる社会の醸成と、公平なデータ収集を基にした慎重な運用も求められています。
参考:コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について│経済産業省製造産業局資源エネルギー庁
2050年のカーボンニュートラルに向け、日本だけでなく世界でもコンクリート・セメントが注目されています。例えば、世界のセメント生産量の半分以上(52%)が生産される中国では、カーボンニュートラルに向けてセメント産業への新規投資が期待されています。
また、カーボンニュートラルへの取り組みと並行して、CO2削減等を達成する日本のコンクリート・セメント市場の開拓も重要です。北米・アジアが、国際市場の確保先として有力視されています。コンクリート・セメント需要は、国内が減少、世界では2050年時点で2014年比12~23%増加の見込みです。
出典:経済産業省|コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について
さらに、製造過程のなかで分離・貯留したCO2を利用する「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」も注目されています。経済産業省の主導で、アジア全域でのCCUS活用に向けた知見共有や事業環境整備を目指す国際的な産学官プラットフォーム「アジアCCUSネットワーク」が設立されています。
カーボンニュートラルを目指すためのコンクリート・セメント技術開発や取り組みは、2024年現在も活発に行われています。
CO2削減の施策として、コンクリートそのものを長寿命化して新規のコンクリートを使う機会を減らす方法があります。
長寿命化の技術として1つ挙げられるのが「自己治癒コンクリート」です。乾燥収縮や外部からの塩化物によるひび割れでの劣化は、コンクリートの課題でした。自己治癒コンクリートは内部にバクテリアの代謝機能を活用した修復機構が存在し、ひび割れを自ら修復する性質を持ちます。
また、「CO2を吸収し炭酸化させることで科学的に安定した長寿命化」を実現するコンクリート製品も登場しました。
構築物等にすでに使われているコンクリートを適切に補修し、建て替えせずに延命させる施策も、コンクリート・セメント関係におけるCO2削減に有効です。先述の自己治癒コンクリートのように自己治癒機能を備える補修材など、さまざまな補修材・補修技術が登場しています。
コンクリートの製造工程でのCO2排出実質ゼロ以下としたのが、「ネガティブコンクリート」です。CO2吸収材料・CO2固定技術の活用、製造プロセスの見直し、CO2の回収・再利用などによって、コンクリートにおけるCO2の排出を実質的になくすことを可能としました。
また、セメントの代わりに高炉スラグ(2Cao、SiOなど)や産業副産物などを利用しセメントの利用を低減するコンクリートも存在します。二酸化炭素をなかに封じ込めるイメージで、コンクリートが固まる過程にて大量のCO2を吸収・固定し、製品化しています。
実際に、カーボンネガティブコンクリートは、高速道路の橋脚工事などの建築物・土木構造物の利用が進められているのが現状です。
CO2排出量が多いセメントの製造工程プロセスの改善により、カーボンニュートラルを目指す施策も取り組まれています。
例えば、セメントの製造工程で使用するプレヒーター部分を改造することで、セメント製造工程で発生する原料由来のCO2を、80%以上回収する技術が登場しています。回収したCO2を使ってセメント原料を製造することで、CO2排出量の大幅な削減が可能です。
近年では、廃コンクリートなどの廃材などからカルシウムを取り出し、排出されたCO2を吸着させて炭酸塩(CaCO3)として、セメント原料として使える人工石灰石を生成する取り組みもあります。
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とは、CO2を他の気体から分離して収集し、地中深くに貯留・圧入する技術です。経済産業省でも、CCSの技術開発を支援しています。しかしながら、日本ではCCSに適した候補地が少ない背景から、排出抑制につながる「カーボンリサイクル」の取り組みが重要と言われています。
以下では、コンクリート産業にて注目されている、カーボンリサイクルとの関係を解説します。
カーボンリサイクルとは、CO2を資源として捉え、分離・回収してさまざまな製品・燃料に再利用することでCO2排出を抑制する手法です。
出典:CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装|エネこれ|資源エネルギー庁
カーボンリサイクルは、化学、機械、エンジニアリング、化石燃料などさまざまな産業分野にて活用できる技術です。カーボンニュートラル社会を実現するための、キーテクノロジーと位置づけられています。
カーボンネガティブコンクリートの製造工程のように、コンクリート・セメント製造工程などで発生するCO2を資源として利用することも、カーボンリサイクルの一種です。
カーボンリサイクルの技術は、コンクリート・セメントの製造工程プロセス、構築物、製品などのあらゆる部分で活用できます。カーボンニュートラルを目指すうえで、コンクリート製造におけるカーボンリサイクルは今後も重要となるでしょう。
参考:経済産業省|コンクリート・セメントのカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について
ここでは、カーボンニュートラルに向けたコンクリート・セメントの具体的な活用事例を解説します。
カーボンリサイクルコンクリート「TeConcrete」は、大成建設株式会社が開発しました。
セメントの代わりに、高炉スラグを使用しCO2排出量削減最大80%を可能とした「セメント・ゼロ型」、高炉スラグ+炭酸カルシウムなどのカーボンリサイクル製品を使用しCO2吸収・排出収支をマイナスにした「カーボンリサイクルコンクリート」などがあります。実際に、現場打ち、歩床ブロックブロック、シールドトンネルセグメントなどで活用されています。
本製品のCO2固定量が日本の温室効果ガス吸引量に盛り込まれ、そのほかの環境配慮型コンクリートとともに世界で初めて国連に報告されました。
環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM」とは、セメントの代替材料として半分以上をγ-C2S(ガンマシーツーエス)と産業副産物に置き換えることで、セメント由来のCO2を大幅に削減した製品です。世界で初めて、製造時のCO2排出量を上回るCO2量を固定化するコンクリートとなりました。
また、一般的なコンクリートと同等以上の強度を発揮するのも特徴の1つです。本製品は、中国電力株式会社、鹿島建設株式会社、デンカ株式会社、ランデス株式会社の4社共同開発、三菱商事による事業化支援と、多くの企業が関わっています。
環境配慮型コンクリート「バイオ炭コンクリート」とは、バイオマスを炭素化したバイオ炭をコンクリートに使用して炭素を貯留する、清水建設株式会社のコンクリートです。
バイオ炭に加え、通常のコンクリートよりCO2排出量の小さい「高炉セメントB種・C種」を使用することで、バイオ炭のCO2固定量で他の材料のCO2排出量をオフセットし、カーボンネガティブを実現しています。加えて、一般的なコンクリートと同等の施工性や圧縮強度を誇るのも特徴です。
共同検討
UBE三菱セメント株式会社と大阪ガス株式会社は、共同でCCUSに関する検討を開始しています。
国内最大のセメント生産能力を誇る、MUCCの九州工場のセメント用焼成用キルンから排出される熱エネルギー由来およびセメント原料由来のCO2の回収と、地中深くへの圧入・貯留や、e-メタンとして再利用することを目的に、CO2の分離回収、液化・貯蔵、液化CO2の海上輸送、CO2地下貯留ならびe-メタン製造の一連のバリューチェーンの設計および経済性の評価を共同で行っています。
カーボンニュートラルの達成に向けて、CO2排出量が多いコンクリート・セメントの製造・運用を見直す取り組みが日本でも行われています。
実際に「自己治癒コンクリート」「ネガティブコンクリート」などの技術や、CO2を資源として活用するカーボンリサイクルなどが登場しており、さまざまな産業でコンクリート・セメント関係のCO2排出量削減が進められています。
こうした技術・製品を活用し、社会全体でカーボンニュートラルに取り組むことが、脱炭素に取り組む企業にとっても重要になると言えるでしょう。東京ガスでも、脱酸素に関するさまざまなソリューションを提供しています。興味のある担当者さまは、ぜひ以下のURLへアクセスし資料を無料ダウンロードください。
会社名:東京瓦斯株式会社
部署名:ソリューション事業創造部
執筆者名:大塚勝臣(おおつかかつおみ)
執筆者の略歴(職務経歴、保有資格、受賞歴など):
1992 年入社以来、様々な形で省エネ・脱炭素ソリューションの導入に関わる。
一級建築士
一級管工事施工管理技士
MBA