2050年のカーボンニュートラル実現に向け、製造業の工場で取り組むべき効果的な施策を知りたい人もいるのではないでしょうか。本記事では、施策やその重要性、意義、メリットなどをご紹介します。適切な進め方や注意点、課題とその解決方法に加え、具体的な成功事例もいくつか解説するので、実践のヒントとしてぜひお役立てください。
ここではまず、製造業・工場において、カーボンニュートラルとはどのような意義があるのかを解説します。
世界中でカーボンニュートラルが求められている背景には、気候変動による地球温暖化が原因とされる自然災害の増加があります。日本でもゲリラ豪雨や猛暑などのリスクが高まると予想され、対策が急務です。
世界的には、2015年の「パリ協定(COP21)」で気温上昇を2℃未満、可能なら1.5℃に抑える目標が掲げられました。さらに、2021年のCOP26では、1.5℃目標達成に向けて企業や各国にさらなる努力が求められています。日本では、2030年までに2013年度比で温室効果ガスを46%削減する「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が、2021年10月に閣議決定されました。
カーボンニュートラル宣言とは、2050年までに温室効果ガスの排出量を「全体としてゼロ」にする取り組みのことです。「全体としてゼロ」とは、排出される温室効果ガスを、植林や森林管理によるCO2吸収や、CCS(炭素回収・貯留)技術などで除去し、排出量と吸収量を均衡させることを意味します。この目標は、日本の気候変動対策の中心的な課題として注目されています。
2020年10月、当時の菅総理大臣が臨時国会で表明した「2050年カーボンニュートラル宣言」は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げ、日本が脱炭素化を実現する意思を世界に発信したものです。この宣言の意義は、日本がカーボンニュートラルを目指す国々と連携し、情報を共有する基盤を築いた点にあります。
脱炭素化は地球規模の課題であり、一国だけでの解決は困難です。現在、120以上の国と地域が同様の目標を掲げ、企業のグローバルなサプライチェーンにおいてもパートナー国との協力が不可欠となっています。この宣言は、日本が国際社会とともに脱炭素化を進めるための重要な一歩となりました。
製造業・工場におけるCO2排出量や進捗状況とともに、カーボンニュートラルの重要性を解説します。
環境省が発表した「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について」によると、工場を含む産業部門のCO2排出量は他の部門に比べて最も多く、電気や熱の配分後の排出量では全体の37%を占めています。
業種別では、鉄鋼業が全体の約4割を占め、次いで化学工業、機械製造業が続き、この3業種で全体の排出量の65%を占めています。このため、製造業や工場において、再生可能エネルギーの活用やエネルギー効率化によるCO2排出量の削減は、カーボンニュートラル達成に向けて最優先で取り組むべき課題と言えるでしょう。
※出典:2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について│環境省
前述の環境省発表「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について」によると、2022年度の日本の温室効果ガス排出量は11億3,500万トン(CO2換算)で、2021年度比で2.5%減少し、2013年度比では19.3減少しました。産業部門からのCO2排出量は3億5,200万トンで、前年度比5.3%減少し、2013年度比では24.0%減少しています。
この減少は、鉄鋼業の生産量低下によるエネルギー消費量の減少や、電力消費量あたりのCO2排出量の改善、製造業全体の生産量減少が影響しています。これらの要因で、温室効果ガス排出量は減少傾向を示していますが、引き続き取り組みは必要です。
※出典:2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量について│環境省
カーボンニュートラルへの取り組みは、製造業に多くのメリットをもたらします。まず、脱炭素化の国際的な動きにより環境ビジネスの市場は拡大しているため、新たな事業チャンスやイノベーション創出の可能性が広がります。
また、工場でエネルギー管理を徹底することで、消費量を削減し、コスト削減につなげることが可能です。さらに、環境価値の向上をアピールすることで、社会や消費者、投資家からの認知度や信頼感が向上し、企業価値が高まるでしょう。この結果、顧客の確保やブランド力の強化にも寄与することが期待できます。
工場におけるカーボンニュートラルの施策はどこからどのように着手するとよいか、いくつかの案を紹介します。
工場でカーボンニュートラルを目指す際、最初に重要なのは現場の実情を把握し、可視化、最適化のPDCAサイクルを回すことです。まず、自社工場のCO2排出量やエネルギー使用量を算出し、可視化します。次に、エネルギー使用箇所やプロセスを特定し、省エネ可能なポイントを明らかにします。その後、現場に適した改善策を実施し、簡単な取り組みから始めることが効果的です。
さらに、施策の効果を測定して継続的に最適化を図ります。こうしたPDCAサイクルを実施するためには、エネルギー使用状況を定量化する必要があります。そのためには、国際標準ISOのEnPI指標やFEMS(工場エネルギーマネジメントシステム)の導入が有効です(詳細は後述)。これにより、課題を明確化し、改善を進めやすくなります。
工場でのカーボンニュートラル施策を進めるにあたって有効なEnPIは、組織が定めたエネルギー性能を示す定量的な指標です。エネルギー使用量や用途、効率などの測定可能な結果を評価します。具体的な指標例としては、エネルギー使用量(GJ、kWh)、ピーク電力(kW)、用途別エネルギー使用量、エネルギー効率(消費原単位、変換効率)などがあります。
EnPIを導入することで、工場内の各部門や立場ごとに目的に応じた指標を設定でき、それぞれの観点でエネルギー改善効果を検討することができるでしょう。
FEMSは、工場のエネルギー管理を効率化するシステムです。FEMSは、エネルギー使用状況を数値やグラフで可視化し、EnPIに基づいてエネルギー消費原単位を算出します。
FEMSのシステムにより、改善が必要な場所や設備、工程を特定でき、エネルギー最適化に向けた具体的なアプローチの立案が実現しやすくなるでしょう。そのため、カーボンニュートラル化の施策を効率的に進めるための基盤が整います。
製造業でカーボンニュートラルを目指すには、その場限りの短期的な対策を繰り返すのではなく、持続可能で現実的な施策が求められます。そのため、DX化の推進やAIなど情報通信技術も活用して、生産性を向上させることが重要です。
また、国内外で進む脱炭素の最新動向を常に把握し、それを自社の施策に適用することで、競争力を維持しながらカーボンニュートラルを実現する道を探る必要があります。
環境負荷の少ない工場の稼働を目指す取り組みとして、エネルギー効率の向上や生産工程の最適化など、主な案を3つ紹介します。
自社工場でカーボンニュートラルを進めるために、まずは省エネ設備への入れ替えや高効率機器の導入が効果的です。具体的には、照明をLEDに交換したり、モーターやポンプを高効率のものに置き換えたりすることが挙げられます。
また、設定温度や蒸気圧力の適正化、室外機フィンの清掃など、日常的な管理の改善も重要です。これらの取り組みでエネルギー消費量を削減し、効率的な工場運営を実現できます。
工場のカーボンニュートラル推進には、再生可能エネルギーの利用の検討も欠かせません。太陽光発電や風力発電、水力発電などを工場で活用することで、エネルギー効率を向上させながら温室効果ガス排出量を削減できるでしょう。
特に、太陽光発電システムの導入は効果が高く、グリーン電力の購入も脱炭素経営の一助となります。再生可能なエネルギーへの切り替えを進めることで、持続可能なエネルギー利用を実現します。
工場でカーボンニュートラルを実現するには、排出削減技術の導入も有効です。具体的には、CO2回収技術の実装や、廃棄物削減とリサイクルの推進が挙げられます。また、カーボンオフセットの仕組みを導入し、自社で削減が難しい排出量を相殺する取り組みも効果的です。これらの技術と仕組みを活用することで、持続可能な生産体制を構築できるでしょう。
ここからは、代表的な業界や製造分野の工場で実施されているカーボンニュートラルへの取り組み事例を紹介します。エネルギー効率化や再生可能エネルギー活用の具体例、小規模な取り組みで大きな成果を上げた事例、コスト削減と環境対策を両立した方法など、参考になる事例です。
半導体製造分野では、クリーンルームの環境維持や生産設備への供給に大量のエネルギーが必要であり、消費電力の約40%が生産設備、同じく約40%が空調設備を占めていると言われています。
そのため、省エネ対策は生産設備と付帯設備の両面での実施が必要です。生産設備では、純水排出量や排気風量の削減、排熱の効率的な活用を進め、付帯設備では、送風機や送水ポンプのインバータ化、高効率機器の導入、プロセス排気の空調用リサイクルなどで冷熱源エネルギーを削減できます。
成功事例では、センサーを用いてデータを収集し、FEMS(工場エネルギーマネジメントシステム)を活用してエネルギー運用を最適化した例がありました。AIエンジンでエネルギー需要を予測し、エネルギーコストを最小化する運転パターンの計画も実行しています。
また、高効率の燃料電池やコージェネレーションシステムの自立運転を導入し、工場の安定操業を実現している例もあります。重要な負荷には、UPS(無停電電源)を用いて保護することで、信頼性も確保しています。
ある制御機器の製造工場では、省エネを実現するために電力予測システムを活用し、ピークチェンジを組み合わせた電力制御を導入した例があります。天井が高く空調効率が悪い建屋では、生産ラインをテントブースで囲み、効率的に空調を管理して作業区域を快適に保ちました。
さらに、荷物の搬入出時の扉の開閉を最小限にする「乗り移りクレーン」を配置して、室温変動を抑える工夫も行っています。これらの取り組みにより、従来のエネルギー使用量を4分の1にまで削減しました。
ある自動製造工場では、製造プロセスのシンプル・スリム・コンパクト化を進め、工程の短縮や集約による効率化を図っています。工場全体のエネルギー効率改善にも取り組み、蒸気の熱交換や高温空気化技術を活用してエネルギーの再利用を最大化しています。
また、地中熱を活用した省エネ技術を導入することで、自然エネルギーを効果的に利用し、全体的なエネルギー消費量の削減を実現しました。これらの取り組みで環境負荷を低減しつつ、生産効率を向上させた成功事例として注目されています。
工業塗装事業の工場では、計測器を用いた社内設備のデマンド管理により、エネルギー使用状況を可視化し効率的な運用を実現した例があります。循環加温ヒートポンプを導入し、エネルギー効率を向上させながらCO2排出量の大幅削減を達成しました。
また、電力を100%再生可能エネルギー由来のものに切り替え、カーボンニュートラルに向けた持続可能な取り組みを推進しています。これらの施策により、環境負荷軽減と効率的な生産を両立させた成功事例として注目されています。
カーボンニュートラル実現に向けて取り組む際の、製造業・工場の課題点とその解決策を解説します。
製造業・工場におけるカーボンニュートラル実現の課題の1つは、初期コストの負担と資金調達です。省エネ設備や技術導入のためのイニシャルコストが高額で、目標とするCO2削減量が大きいほど費用が増加します。
特に、2030年以降のカーボンニュートラル実現に向けた投資負担が予想され、多くの企業にとって財政面の課題となっています。このため、補助金や融資制度の活用、コスト効率の高い技術選定が重要です。
製造業や工場でのカーボンニュートラル実現には、従業員教育と意識改革が欠かせません。現場では省エネ効果が見えにくく、部署間での責任が不明確なため、取り組みが進まないことが課題です。
また、モチベーションの維持も難しく、効果的な推進が困難になる場合があります。これを解決するためには、省エネ効果を数値で示す可視化や、全社的な取り組みとして責任を明確化する仕組みが必要です。
工場でカーボンニュートラルを実現するための効率的かつ効果的なアイデアや実例と、その重要性を解説しました。自社で取り入れやすい方法を見つけるための参考としてお役立てください。課題を把握し、注意点を考慮することにより、コスト削減はもちろん、エネルギーの安定供給や地球温暖化防止、さらには企業の社会的評価向上にも貢献することが期待できます。
ゼロ炭素ポートは、カーボンニュートラルに関する情報を幅広く提供するWebサイトです。企業の脱炭素化を支援するため、多様なソリューションを提案し、スムーズで効果的な取り組みをサポートします。脱炭素化を推進するパートナーとして、ぜひご活用ください。
会社名:東京瓦斯株式会社
部署名:ソリューション事業創造部
執筆者名:大塚勝臣(おおつかかつおみ)
執筆者の略歴(職務経歴、保有資格、受賞歴など):
1992 年入社以来、様々な形で省エネ・脱炭素ソリューションの導入に関わる。
一級建築士
一級管工事施工管理技士
MBA