脱炭素に向けた省エネ住宅や省エネ設備の重要性は年々高まっており、さまざまな政策に反映されています。2024年4月からは、「建築物の省エネ性能表示」が努力義務となりました。
本記事では、建築物の省エネ性能表示について、概要や対象となる建築物を解説します。住宅をはじめとする建築物の販売や賃貸に携わる企業の担当者は、ぜひ参考にしてください。
省エネ性能の表示義務とはどのような内容なのでしょうか。まずは、概要や表示義務化されるまでの背景を解説します。
2024年4月より、建築物の省エネ性能に関する情報を、建築物の販売事業者や賃貸事業者が表示することが努力義務となりました。省エネ性能の表示努力義務は、2022年6月17日に公布された改正建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(改正建築物省エネ法))に基づいており、「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」が強化されたものです。
※参考:新しい「建築物の省エネ性能表示制度」が始まります!|国土交通省
※参考:建築物省エネ法の表示制度|国土交通省
日本では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、「カーボンニュートラル」を実現することを掲げています。大量の木材を使用したり、大規模な工事を行ったりする必要がある建築物・住宅は、CO2排出量の割合の多くを占めることから、省エネ性能を表示することが努力義務となりました。
また、建築物の省エネ性能表示によって消費者の省エネへの関心を高められれば、家庭におけるエネルギー消費の削減にもつながるでしょう。これまで家電や自動車業界で行われてきた省エネ性能の表示が、今後は建築物・住宅にも適用される流れとなっています。
※参考:2050年カーボンニュートラルの実現に向けて|環境省
次に、省エネ性能を表示することが努力義務となる、建築物や事業者を解説します。
省エネ性能の表示が努力義務となるのは、2024年4月1日以降に建築確認申請を行う新築や、2024年4月1日以降に再販売・再賃貸される建築物です。また、建築確認申請が不要な建築物については、2024年4月1日以降に着工した建築物が対象となります。
対象の住宅は、分譲一戸建て、分譲マンション、賃貸住宅、買取再販住宅などです。非住宅の場合は、貸し事務所ビル・貸しテナントビルなどが対象となります。
建築確認申請を2024年3月以前に行った建築物に関しては、省エネ性能表示の対象外となります。また、2024年4月1日以降に申請を行った場合でも、注文住宅や自社ビルを請負契約によって建築する場合は対象外です。事業者による省エネ表示は任意となります。
省エネ性能の表示が努力義務の対象となるのは、建築物の販売・賃貸事業者などです。該当するか否かは、反復的かつ継続的に、建築物の販売や賃貸を行っているかどうかによって判断されます。例えば、住宅の所有者が1度限り自宅を売却するケースでは、住宅の所有者が事業者として認識されることはありません。
2024年4月以降に新築や再販・賃貸される住宅においては、「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」の2種類が、セットで発行されます。以下に、それぞれの概要を解説します。
省エネ性能ラベルとは、該当する建築物の断熱性能やエネルギー消費性能が表示されたラベルです。省エネ性能の基準達成度を星マークや数字で示し、ポータルサイトやチラシなどの広告に使用されます。
また、省エネ性能ラベルは自己評価したものと第三者機関が評価したものの2種類あります。販売や賃貸を行う事業者が自社で省エネ性能を算出したものが「自己評価」、第三者機関が建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)に基づき、評価・認定したものが「第三者評価」として記載されます。
エネルギー消費性能の評価書とは、物件の概要や省エネ性能評価が記載された証明書のことです。省エネ性能ラベルよりも詳細な情報が記載されていることや、省エネ性能ラベルと同様に、自己評価と第三者評価があることが特徴です。
記載項目は建築物の種類や評価方法によって異なりますが、例えば住宅の自己評価の場合、以下の項目が記載されます。
・建築物の種類
・自己評価か第三者評価か
・物件の概要
・評価の概要
・エネルギー消費性能
・断熱性能
・年間の目安光熱費
・総合判定
省エネ性能ラベルの詳しい記載内容は、以下の通りです。
エネルギー消費とは、建築物の一次エネルギー消費量を指します。一次エネルギー消費量とは、建築物や住宅で使用するエアコンや給湯、照明などの設備機器における消費エネルギーから、太陽光発電などによる生産エネルギーを差し引いたものです。
エネルギー消費性能の項目は星の数で示され、星が多いほど高い評価であることを意味します。なお、星1つあたり、約10%のエネルギー消費量が削減されていることを表しています。
断熱性能とは、室内から屋外への熱の逃げにくさや、屋外から室内への日射熱の入りにくさのことです。省エネ性能ラベルでは、断熱性能は家マークで表示され、家マークが多いほど評価が高いことを意味します。7段階ある省エネ性能のうち、4が省エネ基準適合レベル、5がZEHレベルであることを表しています。
目安光熱費の項目には、住宅の省エネ性能を踏まえて算出された年間の光熱費の目安が記載されます。具体的な金額が明記されているため、他の項目よりも省エネ性能が分かりやすく、他の建築物と比較しやすいでしょう。
ただし、光熱費はそれぞれのライフスタイルによって異なるため、あくまで比較する際の目安と捉えるのが賢明です。目安光熱費は任意項目のため、ラベルによっては表示されていない場合もあります。
一定の省エネ性能を満たした住宅には「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準」、非住宅には「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)水準」が表示されます。
ZEH水準はエネルギー消費性能3以上かつ断熱性能5以上であるときに、「ZEH水準」の項目にチェックマークがつきます。ZEB水準はエネルギー消費性能が事務所などは5、病院などは4の評価となったときに、「ZEH水準」の項目にチェックマークがつきます。
また、ZEH・ZEB水準ともに、第三者評価(BELS)の場合のみ、太陽光発電の売電分も含めて、年間のエネルギー収支がゼロ以下で達成されると、「ネット・ゼロ・エネルギー」の項目にチェックマークがつきます。
次に、省エネ性能の表示義務化が、対象となる建築物の販売・賃貸事業者などに、どのような変化をもたらすのかについて解説します。
これまで、住宅は立地や面積、デザインなどの分かりやすい要素によって評価されてきました。しかし、これまで目に見えなかった省エネ性能が可視化されることで、省エネ性能の高い建築物への評価が高まっています。省エネ性能が高い建築物は、快適に過ごせるだけでなく、光熱費も抑えられることが魅力です。
日本の住宅の省エネ性能は今後も向上することが見込まれる一方で、省エネ性能が低い建築物は今後需要が落ちることが予想されます。省エネ性能の低い建築物の需要が落ちれば、販売価格や賃料なども低下が予想されるでしょう。
建築物の販売・賃貸事業者が、省エネ性能を表示する手順を3つのステップに分けて解説します。
建築物の省エネ性能を評価する方法として、Webプログラムを使用した「性能基準」と、チェックリストを用いて確認する「仕様基準」の2つがあります。外皮性能と一次エネルギー消費性能が分かる場合は、性能基準で確認しましょう。評価対象が住宅で、なおかつ仕様が分かる場合は、仕様基準で確認することも可能です。
次に、自己評価もしくは第三者評価の省エネ性能ラベルと、エネルギー消費性能の評価書を取得します。自己評価の場合、一般社団法人住宅性能評価・表示協会のWebサイトにて、評価結果をアップロードし、必要事項を入力して発行・保存します。
第三者評価の場合、省エネ性能を示す資料などを添えて第三者機関に申請します。審査が完了したのち、第三者機関からラベルと評価書が発行されます。
取得したラベルを事業者から仲介業者などに送り、広告表示ガイドラインなどに沿って建築物の広告に掲載します。具体的には、インターネット広告、新聞・雑誌広告、パンフレット、新聞折り込みチラシなどです。紙面で広告を打つ場合、ラベルのサイズを横幅60mm程度にするよう基準が設けられています。
次に、これから建築物を購入する際に注意すべきポイントを3つ紹介します。
建築物を購入する際は、省エネ性能ラベルを確認しましょう。省エネ性の高い住宅は、快適に過ごせることはもちろん、光熱費の節約にも役立ちます。また、省エネ性の高い住宅は資産価値も高くなりやすいため、将来売却する際にも有利です。中古物件を購入する場合は、建築時の設計図書などで、断熱性などを確認しておくことも1つの方法です。
建築物を購入する際は、省エネ性能だけでなく、耐震性やバリアフリーなどの要素を確認することも重要です。耐震性やバリアフリーなど、建築物全体の性能を評価するものとして、住宅性能表示制度があります。住宅性能表示制度では、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づく制度住宅性能を総合的に評価します。
住宅性能表示制度では、第三者機関による客観的な評価を記載した住宅性能評価書を発行しています。購入する住宅の性能や評価を確認したい場合は、住宅性能評価書を発行してもらうことも1つの方法です。
※参考:住宅性能表示制度とは|一般社団法人住宅性能評価・表示協会
省エネ性能が高い建築物を新築したり、購入したりする場合、国から補助金や税制優遇を受けられる場合があります。
省エネ性能が高い建築物は、その分購入やリフォームなどのコストが高くなりやすいため、補助金をうまく活用しましょう。ただし、補助金制度は年度によって更新される場合があります。最新情報は、経済産業省などの公式Webサイトで確認してください。
住宅ローン減税とは、住宅ローンを組んで自宅を購入した場合に利用できる、減税制度のことです。住宅ローン減税は、2024年1月より対象となる住宅が変更となり、省エネ基準を満たさない新築住宅は、住宅ローン減税が受けられないこととなりました。一方で、省エネ性能の高い住宅ほど、借入限度額が優遇されるよう設定されています。
※参考:住宅ローン減税|国土交通省
2025年4月からは、すべての建築物で省エネ基準適合を満たすことが義務化されます。ここでは、省エネ基準適合の概要と今後の見通しについて解説します。
2025年4月からは、すべての建築物で省エネ基準適合を満たすことが義務化されます。ここでは、省エネ基準適合の概要と今後の見通しについて解説します。
省エネ基準適合とは、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(以下建築物省エネ法という)に定められた、建築物が備えるべき省エネ性能の基準のことです。省エネ性能の具体的な基準として、一次エネルギーの消費量と、外皮基準の表面積あたりの熱損失量が、ともに基準値以下になることが定められています。
現行の制度においては、中規模建築物・大規模建築物の非住宅に省エネ基準適合が義務化されており、小規模建築物・住宅には適応されていません。しかし、2025年4月からは、原則すべての建築物において省エネ基準適合が義務化されるため、基準を満たさない場合は着工・使用開始が遅れる可能性があります。
※参考:省エネ基準適合義務化|国土交通省
日本では、2050年までのカーボンニュートラル達成に向け、国をあげてCO2の排出削減に取り組んでいます。建築業はエネルギーや木材の消費が多い分野であり、CO2を削減するためには、建築物の省エネ性を向上させることが課題の1つです。省エネ基準適合を義務化することで、脱炭素実現の取り組みとして大きな効果を発揮すると考えられています。
※参考:省エネ基準適合義務化|国土交通省
今後、省エネ基準はさらに厳しくなることが予想されます。国では2030年までに、すべての新築住宅がZEH基準に対応することを目指しているため、省エネ性能の高い住宅の普及はさらに進んでいくでしょう。なお、ZEH基準とは、年間の一次エネルギー消費量が実質ゼロになる住宅を指し、断熱性能が高く、省エネ設備や創エネ設備が整った住宅を指します。
※参考:ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)|経済産業省
脱炭素への取り組みの一環として、2024年4月から省エネ性能表示が努力義務化されました。建築物の販売・賃貸事業者などにおいては、これまでにない対応を迫られるでしょう。将来的にはさらに建築物の省エネの重要性が高まることが予想されるため、早めの対策をしておくことをおすすめします。
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会社名:東京瓦斯株式会社
部署名:ソリューション事業創造部
執筆者名:大塚勝臣(おおつかかつおみ)
執筆者の略歴(職務経歴、保有資格、受賞歴など):
1992 年入社以来、様々な形で省エネ・脱炭素ソリューションの導入に関わる。
一級建築士
一級管工事施工管理技士
MBA