2020年のカーボンニュートラル宣言を受け、温室効果ガス削減に向けた様々な法整備が進んでおり、日本国内の企業の経営・運営方針にも大きな影響が及んでいます。企業の脱炭素をめぐる動向が目まぐるしく変化する中、なかなか対策が進まず、悩まれている事業者の方々も少なくないはずです。
こうしたお悩みに少しでも寄り添えるよう、ゼロ炭素ポートでは、省エネおよびCO2排出量削減につながる取り組みを進めている事業者様の事例を紹介していきます。課題や成果・メリットなど、取り組みを実施する上での有益な情報や、脱炭素対策に向けて悩みを抱える事業者の皆様へのアドバイスもお聞きしています。今回はCN(カーボンニュートラル)推進室を立ち上げ、環境への取り組みを進める化学品製造・販売メーカーの新日本理化株式会社にお話を伺いました。
● 業種:化学品製造業
● 事業内容:化学品中間素材の開発、製造、販売
● 資本金:5,660,000,000円
● 従業員数:410名(連結)※2024年3月現在
● 上場/未上場:東証スタンダード市場へ上場
● CO2排出量および削減目標:2013年を基準として2030年50%削減、2050年カーボンニュートラル達成を目標としています。
当社は、2004年に全工場でISO14001認証を取得して以降、環境マネジメントシステムを活用した環境改善活動に取り組んでいます。経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー使用の合理化等に関する法律」に定められている「生産量当たりのエネルギー原単位」の毎年1%削減の目標に向かって活動に取り組んできましたが、目標に対して自社の計画として掲げた省エネ活動の定義が曖昧で、エネルギー原単位の増減と省エネ活動の取り組みを紐づけることが困難な状態が続いていました。
そこで、これまでの省エネ活動を見直し、設備における燃料の使用状況を根本から把握し、ムリ・ムダ・ムラをより一層排除していくことで、燃料効率の向上を図る取り組みをはじめました。未だエネルギー原単位の削減までの効果には至っていませんが、省エネ活動に対するノーアイデアの状態からは脱し、削減目標に向けた計画立案からその実施に至っています。
ここでは、現在実施中の省エネ活動の中から3つの事例を紹介します。
〇蒸気ボイラーの制御見直し
複数台の蒸気ボイラーを制御し圧力管理をしていますが、その管理はボイラー導入時から見直しを行っていませんでした。過去からの運転状況および生産量の増減から、最適なボイラー制御の検討を進めた結果、設定圧力の変更や運転台数制御、設備の稼働状況に応じたプログラムでの運用などを実施しています。最終的には、蒸気1tあたりの都市ガス使用量を5%以上削減することを目標としています。
京都工場の分散ボイラー。
設定圧力の変更や運転台数制御、設備の稼働状況に応じたプログラムでの運用などを実施。
〇計装エアーコンプレッサーの消費電力異常の察知とその改善
計装エアーコンプレッサー内の部品は3年毎に交換するのですが、電力消費量は1年目と比較すると、2年目は約1.5倍、3年目は約2.2倍になっていたことから、その改善に取り組んでいます。改善策としては、部品内の汚れの蓄積を抑える施策を実行しております。
〇熱媒ボイラーの燃料を灯油から都市ガスへ変換
灯油を燃料とした熱媒ボイラー2台の更新を迎えたタイミングで、都市ガスを燃料とするボイラーへ変更することとしました。灯油よりも環境負荷の低い都市ガスへ変更することで、単に省エネだけではなくCO2排出量削減の効果も見込んでいます。また、これにより当社における灯油燃料の使用量の約4割が都市ガスへ変換されることになります。
現在設備更新中の徳島工場の熱媒ボイラー。
CO2排出量の削減を進めるため、事業活動で使用する電力およびガスの再生可能エネルギー化を推進しています。電力については2030年度までに国内事業所における再生可能エネルギー化100%を目指しており、これまでに、主力工場である京都工場をはじめ、京都R&Dセンター、日新理化株式会社においてグリーン電力(非化石証書付電力)へ切り替えました。
またガスについては、CO2排出量をオフセットしたカーボンニュートラルな都市ガスの調達を京都工場、徳島工場にて開始しました。
加えて、当社のCO2排出量の削減に直接繋がるわけではありませんが、当社の製品を使用いただくユーザー様にてCO2排出量の削減に寄与できるような環境対応製品の研究開発を進めています。2022年に上市しましたポリオレフィン結晶化促進剤「RiKACRYSTA®」は、微量の添加で樹脂の結晶化速度を高めることから、成形サイクルタイムが短縮され、エネルギー消費量の低減に寄与します。また、石化由来原料をバイオマス由来原料へ置換することで、原料のCO2排出量を抑えるバイオマス製品の拡充にも積極的に取り組んでおります。バイオマス可塑剤「グリーンサイザー®」、化粧品原料向けエモリエント剤「リカナチュラ®」、工業用潤滑基剤向けエステル油「エヌジェルブ®」などのバイオマス製品を上市しています。
当社グループは、「地球環境の保全が人類共通の重要課題の一つであることを認識し、化学品製造販売を業務とする立場から積極的に環境負荷の低減を目指す。」という環境方針のもと、2004年には全工場で環境マネジメントシステムISO14001認証を取得し、継続的な環境改善に取り組んできました。
そうしたなか、2020年に日本政府によるカーボンニュートラル宣言が発表されたことを受け、CO2排出量の削減を目指していくことがこれからの企業のあるべき姿として必須要件となるだろうということ、そして石化由来の原料が全体の7割を占める業態である当社にとっても、カーボンニュートラルは非常に大きな責務であると認識しました。
同時にカーボンニュートラルに向けて取り組みを推進するにあたり、これまでの省エネ活動では不十分であり、抜本的な方針の転換が必要だという考えに至りました。
そこで、2021年、「気候変動への対応」を当社グループのCSR重要課題の一つに位置付け、CN推進室を立ち上げました。CN推進室では「2030年度までに国内事業所からのCO2排出量を2013年度比で50%削減、そして2050年度にはカーボンニュートラルを達成する」という目標を掲げ、今までとは違う視点での省エネ活動と、エネルギーの変換によるCO2排出量の削減という両軸でアプローチを開始しました。
省エネ活動を加速させるため、全行程での電力や燃料等の見直しを実施しましたが、古い設備を多く抱える当社においては、正確なエネルギー使用量を把握するのが困難な状況でした。
そこで、工場全体のユーティリティ配管の系統図を再作成することから始めました。配管が複雑に分岐していたり、電力の配線が見えない状況になっていたりと、課題が多くあったなか、1年ほどかけて全工場のユーティリティ系統図を揃えました。それからは、エネルギー使用量を把握するために必要な測定器の設置場所の検討、設備毎のDCS制御データによるエネルギー使用量の把握など、工場全体のエネルギー使用量の「見える化」に向けた取り組みを進めています。
再生可能エネルギーへの転換によるコスト増は、製品価格への転嫁が難しいのが現状です。そのため、エネルギー使用量を削減する取り組みと両軸で進めていますが、実際は再生可能エネルギーによるコスト増加の負担の方が大きくなっています。
この課題については解決の糸口がまだ見えていませんが、今後「製造時のCO2排出量が少ない製品」という新たな価値が広がっていくことを期待しています。
またCN推進室に配属されている社員のほぼ全員が他の業務を兼任していることも課題の1つです。当社においては人員に余裕があるわけではないため、推進室を立ち上げた2022年度は、推進室メンバーが各々の部署で孤軍奮闘する状態となってしまい、通常業務もあるなか、思うように議論や取り組みが進みませんでした。
そこで、各部署の業務のなかでカーボンニュートラルに寄与する取り組みを進めることで、会社全体での取り組みを加速できるようにするため、発足当初に掲げていたCN推進室の役割を「カーボンニュートラルの実行」から「各部署が取り組むカーボンニュートラルを統括する」ことへと変更しました。
役割を変更してからまだ1年が経過したところですが、その成果として、2023年度は生産現場からのCO2排出量削減に向けた動きが活発になったと感じています。
〇蒸気ボイラーの制御見直し
まだ改善途中ではありますが、蒸気1tあたりの都市ガス使用量は、改善策実施前と比較し約3%削減することができました。最終的には、5%以上の削減を目標としており、検討を継続しています。
〇計装エアーコンプレッサーの消費電力異常の察知とその改善
部品内の汚れの蓄積を抑える施策を開始してから1年が経過しましたが、現状電力消費量に増加傾向は見られず、過去の推移に比べ電力消費量の抑制効果が見られています。このまま2、3年目も1年目と同程度の電力消費量を維持できた場合は、当社の電力消費量全体の約1%の省エネ効果が得られます。
〇熱媒ボイラーの燃料を灯油から都市ガスへ変換
本施策については現在更新を進めているところであり、完成は2025年1月を予定しています。能力の適正化および燃料が灯油から都市ガスに換わることで見込んでいるCO2排出量の削減量は約350t-CO2/年であり、当社のCO2排出量全体の約1%となります。
上記の具体的な省エネ活動での成果のほか、省エネを進める過程で得られた成果もございます。省エネ活動の肝となったエネルギー使用量の把握の推進により、今まで意識していなかったポンプやコンプレッサー、ボイラーの最適化という視点を持てるようになったと感じております。エネルギーの最適化が、省エネだけでなく生産安定性の向上に繋がった設備もありました。
また全社横断でのCN推進室の設置により、各々の工場で終息していた省エネ活動を他工場が導入するなど、工場間交流が増えたことも成果の1つです。
新日本理化株式会社の京都工場(左)と徳島工場(右)。
CN推進室設置により、工場間の交流が増えたことで、省エネ活動が横断的に導入されるように。
省エネ活動および再生可能エネルギーの導入に加え、生産品目や数量の増減も影響した結果、2023年度のScope 1およびScope 2のCO2排出量は、基準としている2013年度に比べ約35%の削減となりました。
また、現時点で計画している省エネ活動および再生可能エネルギーの導入により、「2030年度までに国内事業所からのCO2排出量を2013年度比で50%削減」という目標を達成できる見通しです。
多くの企業様が抱える課題に、当社も漏れなく直面しており、アドバイスできるようなことは少ないのですが、CO2排出量の削減に向け全社で取り組みを進めることが、より多くのアイデアの創出に繋がると感じております。
製造会社である当社では、省エネは工場が主体となって進めるものという認識がありました。全社横断でのCN推進室を設けたことで、生産現場の省エネ活動だけでなく、研究開発における生産工程最適化の活動、購買部による再生可能エネルギーの調達活動、物流部による輸送手段最適化の取り組み、そして営業部によるユーザー様へのアピール活動と、全体で取り組みを進めることができています。また、各々が積極的に情報収集に努め、何か出来ることはないかと日々模索しています。
そうした意識・行動が、カーボンニュートラルの達成という大きな成果に繋がると考えています。