執筆者プロフィール
高牟礼昇
Noboru Takamure
オーストラリア最古の大学であるシドニー大学のSchool of Physicsで研究員として勤務し、ガラスや次世代太陽電池と言われているペロブスカイト太陽電池、水素の電気分解などカーボンニュートラルに関係する分野の研究を行う。現在はシドニー大学の客員研究員として研究を行う傍ら、山梨県で研究開発サービスを行う株式会社マッケンジー研究所を設立し研究開発サービス及び脱炭素コンサルティングなどを行っている。
現在脱炭素社会の実現に向けて、国内では様々な取り組みが進められています。そのうちの一つとして、地方自治体とその地域で活動する企業が協力し、地域課題を解決しながら地域のカーボンニュートラルを目指す「地域脱炭素」の取り組みが環境省主導で行われています。今回はこの地域脱炭素の取り組みについて解説しながら、企業として地域脱炭素の取り組みに参加するメリットや、取り組み参加までの課題などを紹介します。
環境省が制定する「地域脱炭素ロードマップ」は、脱炭素に取り組みながら地域の魅力と質を向上させる地方創生を行い、政府と地域が共に地域課題を解決しながら2050年のカーボンニュートラルを目指す指針です。この地域脱炭素ロードマップでは、地方自治体だけでなく地域に根差した企業や金融機関の積極的な参加が期待されています。
地域脱炭素ロードマップでは、最初のステップとして2025年までに人材や技術、情報、資金を積極支援することで、将来的な地域脱炭素の道標となる先進的な脱炭素の取り組み実施が推進されています。これと並行して2030年までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を作ることを目指しています。
脱炭素先行地域は市町村の一角にあるビジネス、商業エリアや大学キャンパスなど特定サイト、農村、漁村、山村と言った自然エリアなど地域脱炭素を行う際のモデルとして一定のまとまりを持つ既成の範囲を指しています。この脱炭素先行地域で得られた成功事例が他の地域にも導入されることで、脱炭素実現のための実行が各地域に伝播していく「脱炭素ドミノ」が起きることが期待されています。
出典:環境省 脱炭素地域づくり支援サイト|脱炭素先行地域|第5回 脱炭素先行地域募集(https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/boshu.html)内「脱炭素先行地域づくりガイドブック(第5版)」を参照。
(2024年2月21日)
地域脱炭素ロードマップを推進し、脱炭素ドミノを行うためには、①継続的・包括的支援、②ライフスタイルイノベーション、③制度改革という3つの基盤となる施策が重要であるとされています。
地域脱炭素達成に向けて、地方自治体による相談窓口の設置、企業による人材育成や技術革新の推進、金融機関によるESG投資の取り組みなど、さまざまなアクターがそれぞれの役割で実践できる脱炭素事業を展開することが期待されています。①継続的・包括的支援はこうした事業を推進するため、地域に実施体制を構築すると共に、国が人材、情報・技術、資金の面から積極的に支援するスキームを確立することを念頭に置いた施策です。地方環境事務所が中心となり、各地域の強みや課題を吸い上げるための相談窓口体制を確保・支援しています。また地域脱炭素に取り組みたい地方公共団体と、脱炭素に関する豊富な経験等を有する事業者との間で人的ネットワークを構築するためのネットワーキングイベントが環境省主催で開催されています。
また地域の脱炭素化に参画が期待されている地域の企業として、銀行などの金融機関を始め、電気やガス、石油などを販売するエネルギー関連企業、学校や病院などの公共施設、小売店、工務店や工事店、運輸、交通機関、農林漁業事業者、その他の中小企業など、脱炭素活動を推進できる可能性のある各地域の事業者が幅広く挙げられています。
| 業種 | 期待されている脱炭素活動 |
| 金融機関 | 脱炭素に繋がる事業への融資 |
| エネルギー関連企業 | エネルギーインフラの確保・営業網・ノウハウの活用 |
| 公共施設 | 自家消費太陽光、ZEB化、木造化 |
| 小売店 | CO2削減にポイント付与・食品廃棄削減、古着回収 |
| 工務店や工事店 | ZEH・ZEB、断熱改修・屋根置き太陽光 |
| 運輸、交通機関 | 電動車カーシェア、充電インフラ・サステナブルツーリズム |
| 農林漁業事業者 | 営農型太陽光発電、スマート農業・工務店・工事店 ・森林整備 |
| その他の中小企業 | 省エネ再エネ投資・サプライチェーン対応 |
地域社会に生きる人々が生活の中で脱炭素を意識し行動できる社会を目指すライフスタイルイノベーションを実現するため、環境省は関係省庁や地域企業と連携しながら様々な施策を行うことを表明しています。ブロックチェーン技術などのデジタル技術を駆使して、購入する商品やサービスのGHG排出量を2030年までに見える化する試みや、地域のCO2削減ポイントの普及拡大、また行動インサイトを活用した市民の自発的な脱炭素行動後押しの促進など、その施策は多岐にわたっています。
このイノベーションを機に、市民の意識の変化に伴うビジネスチャンスが顕在化する可能性もあります。脱炭素を推進する技術の普及に寄与するIT企業などのような技術力の高い事業者にビジネスチャンスが発生すること、また、一般家庭の市民のリサイクルに対する意識の高まりとともに、リサイクル事業の需要も高まることも予測されます。
現在地域脱炭素の実現へ向けて制度改革も進められており、ルールのイノベーションも行われています。この新しいルールの対象には再生可能エネルギーの積極的な活用や、住宅や建築物の省エネ、創エネ化、エネルギーの有効活用、交通、インフラなど地域社会を取り巻く様々な内容が含まれています。
出典:国土交通省 PPP/PFI(官民連携)|地域プラットフォーム|地方ブロックプラットフォーム|PPP/PFI推進施策説明会|PPP/PFI推進施策説明会(令和5年度)(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/sosei_kanminrenkei_fr1_000134.html)内「地域脱炭素の取組における官民連携の推進」を参照。
(2024年2月21日時点)
脱炭素先行地域づくりの一環として、民間と共同して意欲的に脱炭素に取り組む地方公共団体等に対して、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金が交付されています。令和5年度の予算は350億円で、主に脱炭素先行地域に対して交付されます。交付の対象となる事業は再エネ利用などCO2排出削減に向けた設備の導入や、インフラ整備、ZEHなど建築物の省エネ性能等の向上、地域住民のEV購入支援などです。また、交付は1度きりではなく、複数年と継続的な支援が得られます。
以下の表に代表的な地域脱炭素移行・再エネ推進交付金の支給対象をまとめました。
| 交付対象事業 | 事業主体 | 交付率 |
| 太陽光発電設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 |
| 風力・地熱・中小水力・バイオマス等その他の再エネ設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 ただし、財政力指数が全国平均(0.51)以下の地方公共団体は3/4 |
| 熱利用設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 ただし、財政力指数が全国平均(0.51)以下の地方公共団体は3/4 |
| 蓄電池 | 民間事業者・個人 | 2/3 ただし、財政力指数が全国平均(0.51)以下の地方公共団体は3/4 |
| その他基盤インフラ設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 ただし、財政力指数が全国平均(0.51)以下の地方公共団体は3/4 |
| 車載型蓄電池等 | 民間事業者・個人 | CEV(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)の銘柄ごとの補助金交付額 |
| 充放電設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 ただし、財政力指数が全国平均(0.51)以下の地方公共団体は3/4 |
| 水素等関連設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 ただし、財政力指数が全国平均(0.51)以下の地方公共団体は3/4 |
| ZEB | 民間事業者 | 2/3 上限5億円/棟/年、ただし延べ面積 2,000 ㎡未満は上限3億円/棟/年 |
| ZEH | 民間事業者・個人 | 55 万円/戸 |
| ZEH+ | 民間事業者・個人 | 100 万円/戸 |
| ZEH-M及びZEHを上回る高性能住宅 | 民間事業者・個人 | 建築基準により細かい規定あり |
| 既存住宅断熱改修 | 民間事業者・個人 | 2/3 戸建住宅1戸あたり:上限 120 万円、集合住宅1戸ごと:上限 15 万円 |
| EV 自動車(カーシェア) | 民間事業者 | 電気自動車カーシェア:100 万円/台プラグインハイブリッド自動車カーシェア:60 万円/台 |
| EV バス | 民間事業者 | 2/3 |
| EV 清掃車 | 民間事業者 | 2/3 |
| グリーンスローモビリティ | 民間事業者 | 2/3 |
| 水素等利活用設備 | 民間事業者 | 2/3 |
| 高効率換気空調設備等 | 民間事業者・個人 | 2/3 |
| 効果促進事業 | 民間事業者 | 2/3 |
| その他事業を実現する上で必要と認められる設備 | 民間事業者・個人 | 2/3 |
交付対象は再エネ設備、蓄電・放電、水素、高性能建築物、電気自動車(EV)、設備の高効率化などが挙げられます。これらの交付対象は再エネ設備を導入する企業や高性能ビルを購入する企業、EVを導入する企業なども含まれていますので、幅広い企業が対象になっています。一方で、給付金を受ける場合は固定価格買取制度(FIT)・FIP制度を取得しないことなど、制約がある場合がありますので、受ける際には条件を調べておく必要があります。
出典:環境省 脱炭素地域づくり支援サイト|交付金(https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/grants/)内「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金 事業概要」および「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金 実施要領」、
徳島県 ホームページ(https://www.pref.tokushima.lg.jp/)|一般の方|くらし・環境・地方創生|自然・環境|※R6.2.1更新「一部事業の申請受付の終了について」_令和5年度徳島県地域脱炭素移行・再エネ推進事業等補助金の公募についてを参照。(2024年2月21日時点)
地域脱炭素の実現のためには地方自治体のみではなく、各地域の様々な企業の参画も求められています。理由としては、GHG排出の多くが企業活動に起因しており、各地域の企業のGHG排出量の削減協力が必要であることに加え、各地域の企業が持つ技術や人材などが地域のGHG排出量の削減に大きく貢献できることが挙げられます。
また地域脱炭素という流れに乗ることで地域、ひいては日本の脱炭素に貢献しつつ、自社が大きく成長できるチャンスとなります。日本全体が脱炭素に動いている今、地域脱炭素への参画は補助金採択やビジネス拡大のチャンスなど企業にとって様々なメリットを得られることが予測されます。
現在、社会全体で不足しているリソースは脱炭素に関する人材と知識です。このため、脱炭素に係る人材の獲得は地方自治体では急務となっています。他にも、ライフスタイルイノベーションに伴う人々の行動や思考の変化により、消費の傾向も変化していくと考えられます。加えて、社会構造も変化していくことが予想されるため、地域脱炭素に伴い脱炭素経営を実践することで利益をあげやすくなることも期待できます。さらに、各地方自治体では地域脱炭素移行・再エネ推進交付金の交付に伴って、後述する「重点対策加速化事業」も進められています。この事業には各地域の企業参画が期待されているため、本事業にまつわる自社技術を自治体へうまくアピールできれば、ビジネスチャンスを掴める可能性もあります。
◉地域脱炭素に伴い発生しうるビジネスチャンス例
・人材育成のためのセミナー開催などによるビジネス機会の増加。
・地方自治体や地域企業へのコンサルティングによるビジネス機会の増加。
・ライフスタイルイノベーションによる低炭素製品の販売額増加。
・各地方自治体での重点対策加速化事業への参画機会の増加。
・脱炭素技術を持つ企業に対する地方自治体側から発注の可能性。(リサイクル施設等の高効率化など)
企業が地域脱炭素に参画する場合、いくつか気を付けるポイントがあります。まず、地域脱炭素の窓口は地域の自治体である場合がほとんどですので、各自治体とのコミュニケーションをしっかりと行う必要があります。また地域脱炭素の施策はまだ始まって間もないため、脱炭素の知識を持った人材が地域に不足しており、各企業の脱炭素に関連する事業の内容に対し、理解に時間がかかることも考えられます。そのため、企業が脱炭素の技術や知識を持っていたとしても、その事業内容やノウハウがどのようなものであるかを自治体側に的確に伝えられなければ、地域に寄与する脱炭素事業を進めることは難しくなります。
このため、専門の技術と知識のある企業が自治体に人材を派遣してセミナーを開催したり、逆に自治体主催のセミナーに参加したり、各自治体の相談窓口に相談したりするなど、定期的な情報交換の場を設けることが大切です。このような場では技術や対策をアピールするとともに自治体側のニーズを把握することもできます。
地域脱炭素移行・再エネ推進交付金の中には重点対策加速化事業が定められており、再エネ発電設備を一定以上導入※するケースなどに対して交付金が支給されます。この重点対策加速化事業は脱炭素先行地域に選定されていない自治体でも申請できるため、多くの自治体により利用されています。以下に重点対策加速化事業の実施例をいくつか紹介します。
※都道府県や指定都市、中核市、行時特例市では1MW以上、その他の市町村では0.5MW以上
| 自治体名 | 再エネ導入(kW) | CO2削減量(t) | 総事業費(億円) | 交付金額(億円) |
| 北海道登別市 | 4,823 | 77,356 | 57 | 12 |
| 山形県 | 5,400 | 65,186 | 14 | 10 |
| 神奈川県小田原市 | 6,500 | 124,434 | 40 | 15 |
| 鳥取県 | 1,000 | 24,579 | 22 | 12 |
| 福岡県糸島市 | 5,694 | 63,953 | 21 | 6 |
これらの事業は自治体から支給される給付金を基にして自治体と企業が協力して行っています。この自治体からの給付金とは別に、環境省から企業に直接支給される交付金もあります。企業側から見れば自治体からの給付金に加え、環境省からの交付金もあるため、事業実施におけるコストダウンがより容易になります。
この重点対策加速化事業は太陽光パネルの導入など再エネ設備の導入が対象になっていますが、この他にも地方自治体と地域内外の企業が連携した取り組みは多く見られます。以下の企業はすでに様々な自治体との連携を行っており、PPAによる再エネ導入や省エネなどにより地域脱炭素で実績を上げつつあります。
| 企業名 | 事業エリア | 業種 | 提供可能なソリューション |
| 北海道電力株式会社 | 北海道 | 電力 | 省エネ、創エネ・グリーン化・CO2削減等 |
| 株式会社東北銀行 | 東北 | 銀行 | SPCを活用した地域循環型プロジェクトファイナンス組成等 |
| TNクロス株式会社 | 関東 | エネルギー(電力)、IT・通信 | 蓄電池+太陽光発電PPAソリューション等 |
| 企業組合山仕事創造舎 | 中部 | 林業サービス業 | 森林整備によるバイオマス資源の生産、炭素吸収/固定量の増加等 |
| 三菱自動車工業株式会社 | 関東 中部 近畿 中国 | 製造業 | 電動車両の活用、リユースバッテリー活用等 |
| 株式会社とっとり市民電力 | 中国 | 小売電気 | 県内自治体の所有する再エネ発電所との相対卸契約による地産地消と地域内経済循環の推進等 |
出典:出典:環境省 脱炭素地域づくり支援サイト|交付金(https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/grants/)内「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金 事業概要」を参照。
(2024年2月21日時点)
地域脱炭素は、環境省主導の地域脱炭素ロードマップに基づき推進されています。地域脱炭素には自治体のみではなく、脱炭素経営や脱炭素に関する人材育成、コンサルティングなどを通して、その地域に根差した企業の知見を活かした自治体へのサポートが不可欠です。すでに利益を見据えて各地域の事業者が地域脱炭素に参画するケースも見られており、その数は今後も増えていくことが考えられます。
執筆者:高牟礼昇